スコア以上に苦しんだオーストラリア戦 勝利の裏に鈴木の意思と小林の間

中島大輔

岡田を開き直らせた小林の“間”

制球が定まらず、「放心状態だった」という岡田に対して、捕手の小林が絶妙の間でマウンドへ駆け寄った 【写真は共同】

 このピンチを救ったのが、捕手・小林誠司のつくった“間”だった。マウンドに向かい、岡田に声をかける。すると東京ドームに詰めかけた4万1408人の大観衆が、大きな拍手でエールを送った。

「マウンドで『ありがたいな』と思って、あの声援をなんとか力に変えていきたいと思いました。お客さんの声援がボールに乗り移って、ストライクゾーンに行って、相手打者の芯を外して、それがゴロを打たせてくれて、ゲッツーになった。すごく感謝しています」

 これが、オーストラリア戦の分かれ目となった二つのポイントだ。試合終盤には中田翔と筒香嘉智の本塁打、千賀滉大や宮西尚生、牧田和久の好リリーフがあった一方、中盤で一つ間違えば、勝敗は違う方向に転がっていたのである。

勝利の裏に成功を引き寄せた必然

 ただし見逃せないのは、二つの失敗はたまたまいい方向に進んだわけではない。勝利の裏には、成功を引き寄せた必然があった。鈴木のセカンドへの内野安打では、前述したように右打ちのサインが出ていた。危うく失敗に終わりかけたが、走者を進めようとする鈴木の意思が好結果を呼び込んだとも言える。

 岡田が大ピンチで放心状態に陥った際、救ったのは捕手の小林だった。試合後、小久保裕紀監督は「小林の声掛けのタイミングは絶妙だった」と振り返っている。女房役が間を置いたからこそ、大観衆は拍手でエールを送り、それが岡田を開き直らせた。

 前日のレポートでも書いたが、成功と失敗は紙一重だ。偶然や運を味方につけなければ、勝負はモノにできない。特に小林の置いた間は、指揮官も賞賛するように、苦境を打開するだけの効果をもたらせた。

世界一奪還へ必然を近づけたい

8回から4番手として登板した宮西は打者3人をぴしゃりと抑えた 【写真は共同】

 しかし、侍ジャパンが「世界一奪還」を掲げる以上、もっと偶然を必然に近づけていく必要がある。オーストラリアには苦しんで勝てたものの、2次ラウンド以降には強敵が待っている。

 とりわけ気になるのが、ピンチでの継投だ。球数制限は1次ラウンドの65球から2次ラウンドでは80球となり、先発には5〜6回を投げ切ることが期待される。その場合、中継ぎで逃げ切るのは残り3〜4回と想定すれば、オーストラリア戦のように中盤で山場を迎えた際、宮西を早くつぎ込むこともできる。

 8日のオーストラリア戦で8回を任された宮西は、安定感抜群の投球で8回を3人で抑えた。百戦錬磨の左腕に試合終盤を任せるのか、あるいは火消し役としてこの日、岡田が任されたような場面で投入するのか。オーストラリア戦では岡田のリリーフが結果的に成功したが、宮西に任せてもいい場面だった。

投手陣の状態を見極めたい中国戦

 もちろん、そうしたリレーが可能になるのは、終盤に信頼できる駒を多く残しておける場合である。その見極めをするうえで大事になるのが、10日の中国戦だ。松井裕樹、増井浩俊らまだ1度も投げていない投手陣の状態を確認し、ブルペンの起用法を固めていく必要がある。特に松井をどんな場面で起用するかは、今後のポイントになりそうだ。宮西の使い方にも関わってくる。

 8日のオーストラリアに勝利し、2次ラウンド進出はほぼ確実になった。ただし相手に恵まれた1次ラウンドとは異なり、この先は手強い相手が待っている。だからこそ偶然を必然に近づけるべく、今後を見据え、中国戦を有効に使いたい。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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