世界一へ集中力高めるベネズエラ エース・ヘルナンデスの想い

丹羽政善

強豪プエルトリコ戦の先発を明言

メジャー通算154勝のヘルナンデス。優勝候補の一角に名を連ねるベネズエラのエースとして、WBC初優勝へ強い意欲を示す 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 去年の夏ごろのこと。マリナーズのクラブハウスでベネズエラ出身のフェリックス・ヘルナンデスに「WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)に出るか」と聞くと、即答だった。

「もちろんだ」

 昨年、右足のふくらはぎを痛め、2カ月ほど戦列を離れた。マリナーズが出場に難色を示す可能性があったが、「チームの問題ではない」と一蹴。「出場するかどうかは、選手の権利。彼らが、NOと言うことは出来ない」と正論を口にした。

 多くの選手は、自分が出場すればチームがどう考えるか、多少なりとも推測する。彼も前回大会は、ちょうどマリナーズと長期契約の交渉が大詰めを迎えていたことから回避を決めたが、今回、躊躇(ちゅうちょ)する理由などなかったよう。

 果たして2月8日(現地時間)、各国のロースターが発表されるとベネズエラ代表として出場することが正式に決まり、キャンプイン前日、メディアに囲まれたヘルナンデスは、ローテーションまで明かした。

「俺は、3月10日のプエルトリコ戦に先発する」

 1次ラウンドD組最大のライバル。しかも、初戦である。自ら、手を挙げたか。

やや不安な投手力を打力でカバー

 夏の段階でチームの顔触れを聞くと、ヘルナンデスは「オールスターがずらりと揃う」と話した。

「(ミゲル・)カブレラ、(ホセ・)アルトゥーベ、(カルロス・)ゴンザレス、(ビクター・)マルティネスらが出る」

 すでに彼らとは話をしていたようで、実際、彼が口にしたメンバーは全員が代表入りした。メンバーを見ると、彼ら以外にも、マーリンズで細かい野球を実践するマーティン・プラド、昨季33本塁打を放ってブレークしたルーグネット・オドーア、ロイヤルズの正捕手サルバドール・ペレスらも名を連ね、質、量ともに充実。各選手のポジションをシミュレートすると、オドーアが控えになるかもしれない、というほどの豪華さだ。

 一方の投手陣。要となるのはヘルナンデス。中継ぎには、タイガースで頭角を現したブルース・ロンドン、昨季37セーブをマークしたジーンマー・ゴメス、同44セーブを挙げたフランシスコ・ロドリゲスらがいて、中盤以降、リードしていれば逃げ切るという計算が立つ。

 その中で唯一の懸念が、ヘルナンデスに続く先発。2番手がレンジャーズのマーティン・ペレスでは、決勝ラウンドで苦労するかもしれない。仮に、1次ラウンドのプエルトリコ戦をヘルナンデスで落とすようなことがあれば、足元をすくわれかねない。

 もっとも、彼らにはそれをカバー出来る打力という切り札があり、1番から9番まで、各国が警戒を強める打者ばかり。ヘルナンデスも2月半ば、「2009年も良かったが、今回が最強」と言い切った。

エース温存で準決勝で散った09年

 その09年を少し振り返ると、ヘルナンデスの他、カブレラ、マグリオ・オルドネス、ボビー・アブレイユ、ロドリゲスらが出場し、決勝ラウンドまで駒を進めたが、今回同様に不安視されていたのが先発。決勝にヘルナンデスを温存し、韓国との準決勝をカルロス・シルバに託さなければならなかった時点で、層の薄さが透けた。

 マリナーズに移籍した前年、4勝15敗と大きく負け越し、力を落としていたシルバは、案の定、韓国打線に捕まり、初回に5失点。結局、1回1/3を投げて、6安打、7失点という記録が残る。あのとき、「自分が先に先発するべきだったかもしれない」とヘルナンデス。準決勝からは負けたら終わり。ベストの投手をつぎ込むのがセオリー。ベネズエラはそれをしなかった。

 今回も2番手がペレスなので、ヘルナンデスが準決勝に登板するなら、決勝は、継投を意識した戦いを迫られる可能性が高いが、それはワールドシリーズの第7戦と同じ。いずれにしても総力戦となるはずだ。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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