沙羅、プレ五輪で得た「意味ある勝ち方」 難しい条件で達成したW杯最多タイ53勝

折山淑美

平昌大会、難しい条件の中で出した結果

晴れやかな笑顔を見せる高梨。「プレ五輪」として行われた平昌大会で、通算最多タイの53勝目を挙げた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 それでも2月15日からの五輪プレ大会となる平昌大会ではまたしても、蔵王以降は解消されはじめていた「助走スピードの遅さ」という形で不安定さが出てしまった。初日の試合の1本目はその差を技術でカバーして1位に立ったが、2本目は1位に立った伊藤に(1本目で)時速で0.8キロ負け、W杯総合3位のマレン・ルンビー(ノルウェー)には1.7キロ負けていたということを意識し過ぎたのか、踏み切りのタイミングが大きく遅れて5位になるジャンプしかできず、合計でも伊藤に逆転されて9.5点差を付けられる2位という結果になってしまったのだ。

 だが2日目はクルクルと方向を変える強い風が吹く中の試合で、スキーを変えて助走スピードを少し取り戻した。結果的には1本目、2本目とも2位という順位だったが、「自分がやるべきことに集中したし、それが多過ぎて他のことに目を向ける余裕もなかった」という状況も幸いした。自分のジャンプに集中しきれたことで、合計では2本目にヒルレコードの111メートルを飛んで連勝に王手をかけた伊藤を1.5点逆転し、W杯通算53回目の勝利を挙げたのだ。

「この大会はシーズンの中でも目標のひとつにしていた試合なので、結果をだすことはできたのはうれしいが、反省しなければいけないことはいっぱいあるので……。帰ってからビデオを見て自分の中で整理して1週間後の世界選手権へ向けて調整していきたいと思います」

 こう話す高梨だが、彼女にとっては風の条件が比較的安定していた初日ではなく、強風が吹き荒れた中の試合で勝てたということは大きい。難しい条件の中で自分を保つことができたのが収穫のひとつだと高梨はいうが、平昌五輪の試合は1試合だけ。ジャンプ台の周囲に張られた防風ネットがうまく作用しているとはいっても、この日と同じような荒れた試合になる可能性も高いと見られているからだ。

「ジャンプは野外競技なので自分の力で風をどうにかすることもできないので、そこでは自分を保つことが重要になってくると思う。今日のような試合になることもあると思うので、それを想定してしっかりと精神的に成長していけたらと思います」

 高梨はこの大会で、来年の五輪へ向けたシミュレーションということを踏まえれば、意味のある勝ち方をしたといえる。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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