重友が5年ぶりVで世界陸上代表に名乗り 収穫と課題に瀬古リーダーは更なる注文

中尾義理

重友「こういう走りもできるんだ」

大会前から日本陸連が示した「ネガティブスプリット」が話題になったが、重友は「こういう走りもあるんだ」と新しいスタイルでのレースを経験した 【写真は共同】

 序盤ゆったりだった先頭集団だが、ペースメーカーが12〜13キロ、13〜14キロをそれぞれ3分17秒に上げた。

 ここで日本勢の判断が分かれる。前回2位の堀江美里(ノーリツ)と前回6位の加藤岬(九電工)、昨夏北海道マラソン優勝の吉田香織(TEAM R×L)は付いていき、リオ五輪代表の伊藤舞(大塚製薬)も追ったが15キロで後退。一方、重友は「タイムは遅くないし、体が動いていないこともない」とマイペースを守った。

 先頭の堀江ら3人はハーフを1時間11分46秒で通過。重友は24秒遅れていたが、3人を視界に捕捉しており、追撃を開始した。

 25キロすぎ、「後ろから追いつかれるのを待って対応するより、一人になってでも先頭を走ろう」と決意した堀江が吉田をかわして単独先頭へ。30キロまでに重友との差をまた広げたが、重友は30〜35キロも16分台でカバー。「いい感覚だったし、しっかりした足取りだった」という走りで、35.5キロで堀江に並び、35.7キロで突き放した。

 目標にした自己記録には59秒及ばなかったが、15年大阪国際は後半が4分09秒遅く、16年は後半が9分02秒も遅かった。順位を上げていった今回は後半2秒遅いだけ。ほぼネガティブスプリットだったと言っていい。

 重友は「ペースメーカーの設定にこだわりすぎず、前半落ち着いて走ったらどうなるんだろうと思いながら走りました。昨年までの私なら(ペースメーカーが設定より速くても)追いかけて無理やり付いていたと思います。前半冷静でいられて、こういう走りもできるんだなと思えるレースでした」と自己評価。新たなレーススタイルを経験に加えることができた。

 今回はこの「ネガティブスプリット」という言葉が先行したが、女子マラソンナショナルチームのオリンピック強化コーチの山下佐知子・第一生命グループ監督は「ネガティブスプリットができた、できなかったではなく、後半をしっかり走り切ってこそのマラソンなんです」と話す。

 上位8人でネガティブスプリットだったのは4位のセレナ・ブルラ(米国)のみだが、先頭集団にいたのは5キロまでで、記録は2時間26分53秒。これではネガティブスプリットでも意味薄なのだ。

瀬古リーダー「先頭集団に付いても勝てるレースを」

ほぼ前後半のタイム差なく走った重友だが、その結果に対し瀬古リーダーは更なる注文も 【写真は共同】

 失意や悔しさに何度ぶつかっても這い上がってきた重友の優勝は、自己記録を56秒更新する2時間25分44秒で2年連続2位の堀江、マラソン参戦1年目で3位入賞した田中華絵(第一生命グループ)、新星候補と注目された6位竹中理沙(資生堂)や10位加藤らにどう映っただろう。

 堀江は「速いペースの練習が足りていないし、終盤は足がないなと実感しましたが、一人で先頭を走るということをやれてよかったと思います」と経験値を上げた。田中も「次は世界をというわけにはいきませんが、2歩、3歩は進んだかな。もっと高い目標を持ってやっていきたいです」と前向きだ。

 20年東京五輪でメダルを獲得するために、日本の女子マラソンは立ち直れるのか――。

 その答え探しは始まったばかり。日本陸連のマラソン強化戦略プロジェクトの瀬古利彦リーダーはレース後の会見で「不満もあるんです」と切り出し、「先頭集団に付かないで、遅れてきた選手を抜いていく走りだと、強い外国人選手に逃げられるレースになると厳しい。先頭集団に付いても勝てるレースを」と注文した。もちろん重友の走りは入賞を目指すものとしては及第点で「重友のような実績のある選手が戻ってきてくれたことは良かった」と語った上で、タイム的にはメダルを争える走りだったかというと物足りなさもあったという意味でのコメントを残した。

 それぞれの収穫と課題をそれぞれが良薬にしなければならない。その積み重ねが停滞からの突破口を開くことになる。

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著者プロフィール

愛媛県出身。地方紙記者を4年務めた後、フリー記者。中学から大学まで競技した陸上競技をはじめスポーツ、アウトドア、旅紀行をテーマに取材・執筆する。

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