Bリーグの魅力に溢れたバスケの祭典 初のオールスターは未来を作る一戦に

大島和人

一番のハイライトとなった富樫のダンク

1on1の局面が増えるなど、普段のリーグ戦とはまた違う楽しみが詰まった試合となった 【加藤よしお】

 24名の選手が一人ひとり紹介されてコートに登場した中でも、特に大きな声援を受けていたのはB.BLACKの田臥と富樫。36歳を迎えた日本バスケのレジェンドと、将来を担う23歳の両ガードはいずれも先発で起用され、息の合ったプレーを見せた。

 田臥は栃木のチームメート熊谷尚也のダンクをアシストするなど、第1クォーター(Q)は4分18秒のプレーで4アシストを記録。富樫も得意の突破から得点を重ね、B.BLACKが第1Qを28−16で先行した。

 B.WHITEも序盤から元NBAの技巧派ディアンテ・ギャレット(A東京)が緩急、重心移動を生かしたドリブルで驚異的な打開力を見せていた。お互いにオフェンスを重視して、華やかな打ち合いになるのがオールスター。公式戦に比べて特に「1on1」の局面が増えるため、ギャレットのような個人技の持ち主は生きてくる。ギャレットは第1Qに8点、第2Qは7点とポイントを重ね、この日の27点は両チームを通じて最多だった。

 Bリーグを日常的に見ている人なら、1on1の局面からまた違う楽しみを見つけられただろう。公式戦ではない同じチーム同士のバトル、極端なミスマッチも起こる。167センチの富樫が211センチのヒルトン・アームストロング(千葉)を相手に仕掛けた第2Qの1on1は、特に場内がどよめいていた。

 計15本のダンクが繰り出されて、さながらダンク合戦となっていたこの試合だが、“伝説のダンク”が生まれたのは第3Q残り1分44秒。B.BLACKの富樫が速攻からボールを運ぶと、ゴール下にはジャスティン・バーレル(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)が待っていた。前日の会見で「ダンクを決めます」と宣言していた富樫だが、身長は167センチ。305センチあるリングの上からボールをたたきつけることは容易でない。そんな富樫がいざダンクに挑戦すると、バーレルが富樫の腰を両手で支えてリフト。“たかいたかい”の要領で富樫を持ち上げる見事なアシストを決め、公約は成就した。

「人生初めてのダンクですが、それをBリーグ初めてのオールスターでできたことはうれしい。練習はしていないんですけれど、『ダンクしたい』というのはJB(バーレル)に相談していた。(ダンクの直前に)アイコンタクトで……」(富樫)

 富樫はこのダンクも含めて16得点を決め、アシストも田臥と並ぶチーム最多の6つを記録。B.BLACKの勝利に大きく貢献してオールスターのMVPに選ばれ、30万円の賞金を得ている。

「名古屋で試合があるときに、JBにご飯をご馳走したいなと思います」(富樫)

ベテラン選手が感じた思い

第3Qで人生初のダンクシュートを決めた富樫(右) 【加藤よしお】

 ダンク、ダブルクラッチ、背中越しのパスと魅せるプレーが盛りだくさんに詰め込まれた一戦は、B.BLACKの勝利で幕を閉じた。中継、試合後のスポーツニュースとバスケファン以外も目にする機会もおそらく多かったこのオールスターだが、Bリーグの楽しさをアピールする良い機会になったことは間違いない。

 ハーフタイムに行われたダンクコンテストは、バーレル(名古屋)との決勝を制したアイラ・ブラウン(サンロッカーズ渋谷)が優勝している。MVP、ダンクコンテストの勝敗を決したのはファンによるSNS投票。Twitterなどに投稿された「#ダンクブラウン」「#富樫勇樹」といったタグを集計してカウントする仕組みが導入されていた。

 SNS投票は出場選手の選出でも用いられたが、これにはオールスターに関する情報を投稿者のフォロワーが目にするという宣伝効果がある。MVP、ダンクコンテストの投票は締め切りがすぐだったため投稿を躊躇(ちゅうちょ)した人もいるだろうが、予め認知しているファンが増えればかなり盛り上がる仕掛けだろう。

 口々に来場者数の多さを喜び、感謝していた選手たちだが、ベテラン選手の反応にはプラスアルファがあった。

「Bリーグが始まって初のオールスターゲームだったし、これから進化していくと思う。その最初に携われて、選手として参加できたことはすごく良かった」(五十嵐)

「日本のバスケットがここまで来てくれたなと思った。でもこれで満足せず、これからどれだけ盛り上げていけるかが大事」(田臥)

 間違いなく楽しめるオールスター戦だったが、これがBリーグの最終到達点ではない。ファン投票における投票数を見ると、最多のギャレットが1万3713票だった。昨年のプロ野球オールスター戦を見ると柳田悠岐選手(ソフトバンク)が52万1685票を獲得している。つまりBリーグの投票数は「約40分の1」にとどまっているわけで、事前の浸透が十分だったとは言い難い。

 開催前からもっと盛り上がって、代々木第一体育館より大きなアリーナが埋まる。日本バスケの流れを見てきた五十嵐、田臥の描く未来はそこなのだろう。

 テレビやネット中継の視聴者が増えて、プレーのレベルも上がり、日本の男子代表は五輪の常連になる――。そんな未来を作るために、Bリーグはスタートしている。今回のオールスターが、昨年9月22日の開幕戦とともにより良い未来に向けたスタートとなることを願いたい。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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