選考会の“ネガティブスプリット”も試したい 山下佐知子監督が考える女子マラソン再興

折山淑美

指導者の意識を引き上げることが必要

今年の全日本実業団女子で3区区間賞を取った高島(右)や福士といったベテランも東京五輪を狙ってしのぎを削るだろう 【写真は共同】

 11月の全日本実業団対抗女子駅伝で最長区間の3区を若い選手たちが走っていて、その中でも日本郵政の関根花観さんやダイハツの松田瑞生さん、うちの上原美幸などはまだ20歳〜21歳ですが、東京五輪ではマラソンをやりたいと言っていて非常に面白い存在だと思います。また、その3区で区間賞を取った高島由香さん(資生堂)はトラックや駅伝では非常に高い安定感を持っている選手で東京五輪ではマラソンを視野に入れているという話しも聞きます。ベテラン選手が経験を活かし勝負強さを発揮する事にも期待したいし、リオ五輪に出場した福士さん、伊藤舞さん(大塚製薬)、田中智美も、競技続行予定なのでこのままで終わるとは到底思えません。

 昨年の名古屋ウィメンズでも田中智美に続いて2時間23〜25分で入賞した選手たちはみんな田中より年下で、2時間25分前後の層は増えてきていますし、これからマラソンに移行する若手を含めて競争力をどんどん高めていきたいです。

 ただ女子長距離選手は、やや受け身な姿勢で競技に取り組んでいる事が多いように感じます。長距離の場合は実業団の勧誘もあるので、自分でプレゼンをしなくても、待っていればチームに入れるような環境になっていることも関係するのかなと思います。だから選手を悪者にするのではなく、選手を取り巻く背景を理解した上で指導者が選手の意識を引き上げ、自主性を伸ばす工夫をする必要があると思います。

 また女子選手を指導する上で、指導者は選手以上に本気で世界を目指そうとしないといけないと思います。指導者の姿勢に女子選手は敏感です。

 実業団はどうしても駅伝での成績を会社から求められます。各チームとも7月くらいからスタッフが付いて駅伝の為の長期の合宿を実施し、直前には海外で高地トレーニングをするチームも多いです、駅伝が日本での競技普及や強化の重要な役割を担っている事は活かしこそすれ否定すべきではありません。テレビ放映して頂き、メディアで取り上げて頂けるのは有り難い事だと思います。ただ、駅伝最優先の考えにどっぷり浸かっているのでは他国から見ると異常でしょう。

 私自身も監督に就任した頃は駅伝に重きを置いていましたが、ここ数年は駅伝に関してはスタッフに任せる部分を増やし、私自身は代表を狙う選手の指導に特化する形を取ってきました。そのチーム体制の中で、尾崎好美が世界陸上でメダルを獲得し、田中や上原も五輪代表になれたと思います。他のチームでも抜きん出ようとする選手の育成にもっと力を注いで欲しいと思います。

駅伝への力を代表育成へと分散させる

 最近は駅伝シーズンを前にしても「この選手はここで無理をさせなくても、ピークを来年のマラソンシーズンや、トラックシーズンに合わせて、個人で勝負させたいな」と、選手たちを割と淡々とした気持ちで見られるようになりました。チームによって形は色々あって良いですが、駅伝に注ぐ力を少し楽にすれば、代表育成にもっと目を向けられるのではないかと思います。

 そういう考えを各チームの指導者にどう伝えればいいのかと考えているところですが、今はかつてのようにカリスマ指導者がいなくて指導者同士の交流もある時代なので、みんなで集まって意見をぶつけながらトコトン話し合い方法論を共有して、まずは指導者に世界で勝負する腹を据えて頂きたいと思います。「メダルだって絶対に目指せるし奇跡と思えるような事も実現しますから、自分のチームで“この子と勝負する!”って腹を括ってください」と言いたいです。

 私が強化コーチ就任を引き受けたのは、国民の関心も高く、人気が高い女子マラソンをさらに盛り上げて東京五輪を迎え、そこでメダルを獲りたいと心から願うからです。と、同時に「ここで引き受けなかったら一生後悔するだろう」とも思いました。2020年東京五輪、さらにはその先でも、女子マラソンが日本の人気種目であり続け繁栄していって欲しいです。

 私は選手としても指導者としても五輪ではメダルを獲っていませんし、今も必死に勉強し試行錯誤している状態です。偉そうに人に言える立場ではないと自覚しています。だから、ナショナルチームとして理念や目標を共有し方針を示す為の努力は惜しまないつもりですが、実際の選手強化は日々選手に接している各チームの指導者にやってもらいます。実業団というシステムをしっかり機能させます。ベクトルが東京五輪でメダル獲得という方向に向き、活発に意見交換をしていくムードがあれば問題ないと思ってます。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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