藤田俊哉が感じる欧州の楽しさとジレンマ VVVの1部昇格、将来の夢へ向かって
データ活用にスピード感があるのを感じる
日本語で思ったことを、英語に直して伝えている。「そのまま続けろよ」とか、「今日はチャンスはなかったけれど、ステップ・バイ・ステップでやっていこう」とか、当たり前のことも多いけどね。
――VVVはオランダの中でも規模の小さなクラブですが、ここで感じたことは?
データを集めることは日本でもやっていると思うけれど、どんなタイミングでスピード感を持ってデータを使うかが肝のところ。VVVはその伝達スピードが早いと感じた。VVVでは全体練習の前に、40分から1時間程度、個別トレーニングとかグループトレーニングをする日もあるけれど、休養が必要な選手はそのメンバーから外すとか、コーチングスタッフとメディカルスタッフの連携が早い。それとU19のコーチングスタッフを含めてのミーティングも多い。携帯のアプリでテンポよく情報を共有している。
体調管理はすごくやるよね。定期的に全員の体重や体調をチェックして、血液検査や尿検査もしている。こうしたデータを元に、スプリントの遅い選手やジャンプ系に弱い選手にフィジオが個別にメニューを組んで与えている。ここで面白いのが、個別メニューにトレーナーもコーチも付かないで、選手に「これ、自分でやっとけ」と渡すだけなんだ。
――宿題なんですか?
宿題なんだけど、やる場所はクラブの中。だけど、コーチもトレーナーも見てないんだよね。これはオランダのサッカー文化かもしれない。GKのウォーミングアップでもキーパーコーチが付かないで、試合に出るキーパーと控えのキーパーが2人で練習しているチームがある。これって、見方を変えれば選手にとって指導者への準備になるんだよね。
僕が現役の時は自分のことにまい進していたから、人に何を教えたらいいかまで考えが及ばなかった。だから現役時代の練習メニューなど詳細に覚えていない。だけど、ずっと2人で練習したら、そのルーティーンはずっと(頭に)刻まれる。人に教えるということは、他人のことを考えること。そのことはまた自分にフィードバックされるから、自身の幅も広がり、実力アップにつながる。オランダ方式にはそういうメリットがあるよね。
――藤田コーチの現役時代にはデータの活用は?
僕が日本代表だったのは2005年までだけど、当時はメディカルノートというのを持っていった。そこにはけがの履歴とか、シーズンごとのメディカルチェックとか、書類がまとまっているんだけど、ベテランになるとものすごく厚くなって重いわけ。それは面倒くさかったし非効率だった。でもそれがあたりまえの時代だった。
――藤田俊哉という日本サッカー界の歴史に残るMFがいた。日本には体格に恵まれない子供や選手が多い。そこで「第2の藤田俊哉を育てろ」となった時、データがあれば……。
もう遅いよねということになる。俺を知っていて育てた人が回想で語るだけ。今はもう時代が確実に変わっているよね。データは速報性に加え、継続性も大事になってくる。そして、この年代の選手にはこの項目が必要だよというのを整理していかないと。データというのは貯めただけじゃタダの趣味。オランダでは言い方は悪いけれど、VVV程度の小クラブでも、データ活用にスピード感があるのを感じる。
いずれ“日の丸”を着けたチームの監督を
(第1ピリオド優勝は)ラッキーだったね(笑)。最終節で上位チームに波乱があって、棚ぼた的だったのも事実。
――藤田コーチに対するマウリス・スタイン監督の信頼も厚いと聞いてます。
先発をどう組むか、フォーメーションをどうするか、マウリスは僕の意見もよく聞いてくれる。でも、それは僕にだけじゃないよ。コーチングスタッフ・ルームに、監督とコーチ陣が全員机を隣り合わせて座っているから、マウリスは1人1人に意見を聞いていく。そして、最後は自分で責任を取ってジャッジする。
――スタイン監督は地元メディアに対し「俊哉は、東京五輪で日本代表の監督を務める希望を持っている」と語っていました。
2人の間でそういう話をしたことは確かだけれど……。東京五輪のことに関しては、どちらかというとマウリスたちの期待の方が(藤田自身の思いより)大きいんじゃないのかな? 僕としては東京五輪だけではなく、ワールドカップや五輪などで、いずれ“日の丸”を着けたチームの監督をやりたい。
――今季の目標は?
エールディビジ昇格でしょ。それ以外ない。昨季はジュピラーリーグ(オランダ2部リーグの通称)で2位だったのに昇格できず、悔しい思いをした。そして来季はエールディビジの景色を見てみたい。