作新・今井が見せたプロへの力強い視線 西武1位に「どこまで成長できるか楽しみ」

中島大輔

藤平、寺島にはまだまだ及ばない

西武から1位指名され、肩車される作新学院高の今井達也 【写真は共同】

 作新学院高の職員室で埼玉西武の1位指名を受けてから数十分後、会見場に現れた今井達也は、まだ緊張感を漂わせていた。

「1位指名があるのかなとか、指名してもらえるのかなとか、不安の一心でした」

 今年夏の甲子園で自己最速の152キロを計測し、作新学院高を54年ぶりの優勝に導いた右腕は、「BIG3」と言われていた枠を自らの豪腕で広げて「BIG4」の1人として注目されるまでになった。甲子園の主役となり、大会後の高校日本代表ではエース格を担うまでになった一方、今井自身は東北楽天に1位指名された藤平尚真、東京ヤクルトから真っ先に名前を呼ばれた寺島成輝にはまだまだ及ばないと考えている。

「甲子園大会が始まる前から注目されていた3人なので、自分より実力が上です。総合的に見てもまだまだ自分には力不足なところがあるので。(藤平、寺島の)2人からはこれからまだまだ学ぶことができると思うので、2人の背中を見ながら成長していきたいと思います」

 甲子園優勝投手、そして藤平や寺島と同じドラフト1位という視点で見ると、いささか物足りない言葉に聞こえるかもしれない。だが、自分自身を成長途上と自覚し、その気持ちを原動力としてきたからこそ、今井はここまでたどり着いたとも言える。

プロに行くという強い意志

 今夏の甲子園で「高校BIG4」入りを果たす前、今井は数多くいる好投手の1人という位置づけだった。リリーフとしてマウンドに上がり、当時自己最速タイの149キロを記録した夏の栃木大会決勝の後でさえ、囲み取材の輪を作った記者はそれほど多かったわけではない。

「学校では、あまり目立たないほうなんです」

 宇都宮清原球場でそう言ってはにかんだ姿をよく覚えている。それからわずか1カ月で、今井は高校球界の主役に駆け上がっていった。

 当時からちょうど1年前の2年時夏、栃木大会で背番号18をつけた今井は甲子園のベンチ入りメンバーから漏れた。その悔しさをバネにし、力に変えていったと小針崇宏監督は見ている。

「2年生夏の大会は9イニングを完投する体力、精神力をまだまだこれから身につけなければいけないという段階で、甲子園メンバーから外れはしたんですけど、必ず1年後、甲子園球場でちゃんとしてマウンドに立つという強い意志を見せました。言葉だけではなく、高校野球の先には必ずプロ野球に行くという意志の強さを持っていましたので、練習に取り組み意識がすごく上がっていた気がします。それで体の大きさ、スピード、ピッチング的にもすごく成長したかなと感じます」

 作新学院高に入学したときから、今井はプロへの道を見据えていた。それを自ら明確な言葉に表し、ステップを踏んで成長を遂げてきたからこそ、高校生活最後の1年間に大きく飛躍を果たすことができたのだ。

「どれだけ成長できるか楽しみ」

 一方、今井自身は成長の理由について謙虚な言葉を並べる。

「自分はこれといって特別なことをやったわけではないので。小針監督と馬場(匡・投手)コーチを信じて自分はしっかり練習してきただけだと思います」

 ドラフト後の会見や囲み取材を通じ、今井の成長要因について小針監督は「意志」、今井本人は「感謝」の意を繰り返した。強い気持ちで目標を見据え、周囲の声に耳を傾けたからこそ、甲子園優勝投手、そしてドラフト1位までステップアップできたのだろう。

 では10年後、どんなピッチャーになっていたいか。囲み取材で聞くと、今井はこう答えた。

「自分自身、まだまだ成長段階だと思うので、これから2、3年経つごとに、自分がどれだけ成長できるかを自分がすごく楽しみなところがあります。球界を代表するようなピッチャーに、ゆくゆくはなりたいとは思っています」

 そう言い切ると、両目で視線を合わせてきた。

 会見場にやってきたときの緊張感や、3カ月前の宇都宮清原球場で見せたはにかみとは違う、意志にあふれる力強い視線――。

 この夏、シンデレラストーリーを描いた男らしいたたずまいだった。
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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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