巨人を撃破、広島に立ち向かったDeNA 激闘の中で投手陣が手にした経験
重圧のかかる短期決戦で結果を残した井納翔一 【写真は共同】
レギュラーシーズンの成績は69勝71敗3分と2つの借金を返しきれずに3位となったが、CSでは2位・巨人を激闘の末に下してファーストステージを突破。セ・リーグを制した広島とのファイナルステージでも、第3戦で王者に土をつけ、第4戦も0−6からあわや大逆転というところまで追いすがった。
「甲子園を目指してやっていた高校時代みたい」
梶谷隆幸のそんなコメントが象徴するように、12球団中最後となったCS進出は、多くの選手にとって久々に経験する大舞台だった。それでも萎縮することなく堂々と上位チームに挑みかかる姿は、弱小だったかつてとは一線を画すものであり、結果として見応えのある熱戦が繰り広げられた。
短期決戦では特に、投手がチームの命運を握ると言われる。確かに終わってみれば、DeNAの健闘の陰には、投手陣の安定した働きがあった。
重責果たしたCS開幕投手・井納
第1戦の先発マウンドを託されたのは井納翔一。30歳の右腕は試合後、冗談めかして言った。
「正直、“またか”と思いましたね」
シーズンの開幕投手は、山口俊のケガによる出遅れを受けて、井納が務めた。そしてCSの開幕投手も、やはり山口の故障があり、井納が任されることになったのだ。
プロ入り当初は不思議な言動で「宇宙人」などと書かれることもあったが、年々、頼もしさは増している。今回の大役も7回2失点と試合をつくり、重責を果たした。マウンドに指文字で「決闘」「ガマン」「低く」と書き記し、接戦の中で心とボールを巧みにコントロールした。
井納は連敗で後がなくなったファイナルステージ第3戦にも先発。ここでも7回3安打無失点と広島打線を沈黙させ、反撃の1勝をチームにもたらした。
砂田は「来年につながる」
特に存在感を発揮したのは、砂田毅樹と田中健二朗の2人だった。
育成からはい上がり、今季から左腕のエースナンバーともいえる「47」を背負う砂田は、先発ローテーション入りを狙うも、競争の激化を受けて出番は少なかった。8月になると中継ぎにまわり、安定した成績を残して首脳陣の信頼を勝ち取った。
ファーストステージ第3戦、石田に代わり6回途中からマウンドに立つと、阿部、長野、ギャレットから連続三振を奪取。2イニングを打者6人できっちり片付けた。
「流れを切らないように、しっかりこっちに持ってこられるようにというのを意識して投げた結果です。阿部さんには最後、インコースのスライダーで三振をとれた。今までにない形だったので、これで来年につながるかなと思います」
試合後、そう語った砂田だが、強打者たちを苦しめているのには理由がある。それは投球時に立つプレートの位置が大きく関係している。
左投手の多くは一塁寄りに立つことで、右打者内角へのクロスファイアに角度をつける。サイドスローの投手なら、スライダーは左打者の背中から曲がってくるような軌道を描くため、打つのが難しいボールになる。だが砂田は今季から、あえて三塁側に立つ投球スタイルを選択している。そこからインステップ気味に投げ込んでくるため、左打者はボールが自分の体に向かってくるように見えるのだ。実際、阿部やギャレットは、スライダーを避けるようにして体をひねったが、ボールはそこから曲がりストライクゾーンをかすめていった。
「先発でやりたい気持ちはある」と来季を見据える砂田にとって、中継ぎ、それも大舞台で得た経験は大きな糧となるに違いない。