巨人を撃破、広島に立ち向かったDeNA 激闘の中で投手陣が手にした経験

日比野恭三

巨人の流れを断ち切った田中のけん制

大舞台で「プロ入り初」のけん制刺を決めた田中健二朗 【写真は共同】

 プロ入り9年目、27歳の田中は今季初めてシーズンを通して1軍で投げ続けた。61試合に登板して防御率2.45とフル稼働した左腕を指揮官も高く評価し、終盤の勝負どころで起用した。

 最も緊迫した場面といえば、やはりファーストステージ第3戦の9回裏だろう。3−3の同点、ここから先は巨人が1点でも入れた時点でゲームが終わり、DeNAのCS敗退が決まる。

 先頭の村田に内野安打で出塁を許すと、すかさず代走に鈴木尚広が送られた。オレンジと青が半々の東京ドームはすさまじい歓声に包まれたが、田中は冷静だった。一瞬の隙を見逃さず、この大一番で「プロに入って初めて」というけん制タッチアウトを成立。ピンチの芽を早々と摘んだ。田中は言う。

「僕の場合は、ランナーが出る、1イニングに1本はヒットを打たれるだろうと思ってマウンドに上がっているので、先頭が出たことは想定の範囲だった。けん制で刺した時も『やった』という感覚はなくて、そこで(気持ちが)緩まないように、打者により強く向き合いました」

 9回に続いて延長10回もゼロで抑え、11回の勝ち越しへと流れをつくった。チーム関係者の話によれば「昔はやんちゃなところもあった」という田中は、精神的にも大きく成長した。

 広島に着いてから話を聞くと、「程よく心の張りがあるけど、出番が待ち遠しいということはない。『え、俺が?』というくらいの感じでいた方が良かったりするので」と言っていた。自分の心の持ちよう、良いパフォーマンスが出せる精神状態を熟知しているということだろう。

急きょ合流しピンチを脱した須田

 ファイナルステージの連敗で後がなくなった時、一人の男が広島に呼ばれた。シーズン終盤に左太とも裏の肉離れを起こして戦線離脱した須田幸太である。9月24日の負傷から約3週間、「できることは何でもやった」と驚異的な回復を見せ、土壇場のチームを救うべく急きょ1軍に合流したのだ。

 ラミレス監督は第3戦の試合前、須田について「起用は明言できない。展開によって、シーズン中と同じく7回を任せるかもしれないし、あるいは5回に出番があるかもしれない」と言葉を濁していた。だが、3点リードの8回2死満塁、打席に広島の4番・新井貴浩という大ピンチの場面で、指揮官は迷わず須田をマウンドに送った。

 故障明けとは思えない躍動感のあるフォームから、投げ込んだのは全球ストレート。「140キロ出ればいいと思っていた」と本人は言うが、球速は140キロ台中盤を計測し、7球目のライトへのファウルフライを梶谷が好捕。一発を浴びれば逆転の難を逃れた。

 CSを前に、広島の関係者はDeNAの挑戦を怖がっていた。その最大の理由は、投手陣がどこよりもそろっているということだ。事実、広島打線は第2戦で4安打、第3戦は5安打と苦しめられた。DeNAは結果的に広島の牙城を崩すことはできなかったが、投手陣をはじめ王者に果敢に立ち向かった選手の背中は一回り大きくなった。

 来季のセ・リーグは、「赤」と「青」が頂点を奪い合う構図になる――そんな予感を抱かせる今年の秋風だった。

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著者プロフィール

1981年、宮崎県生まれ。2010年より『Number』編集部の所属となり、同誌の編集および執筆に従事。6年間の在籍を経て2016年、フリーに。野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを中心的なフィールドとして活動中。

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