細貝萌が己の身を捧げる場所 一番の理解者が去っても、チームのために

島崎英純

「チームのために全力を尽くす」

14年に行われたブラジルとの親善試合以降、細貝は日本代表に招集されていない 【Getty Images】

 14年、当時の日本代表を指揮していたアルベルト・ザッケローニ監督から、W杯ブラジル大会直前にメンバー落ちを告げられた。続くハビエル・アギーレ監督体制ではブラジル代表との親善試合での惨敗(0−4)以降、代表入りの声が掛からなくなった。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いる代表がW杯アジア最終予選・初戦のUAE戦で敗戦を喫した。細貝はこのゲームをニュースダイジェストでしか観ていない。続くタイ戦に関しても「(原口)元気と拓磨がゴールしたんだよね」としか言わなかった。

「自分の力が必要とされるチームでプレーしたい」

 彼の吐露した言葉が響く。今回の最終予選の選手リストに、細貝の名前はリストアップされている。それでも彼は今、闘志を代表に注いでいない。

「『代表に入りたいです』ってアピールすればいいの? そんなのおかしいよ。俺は、俺の力を求めてくれる場所で心血を注ぎたい。結果はその後についてくると思うけれど、今の俺は代表に入るためにサッカーをしているんじゃない。シュツットガルトというチームのために、このクラブを応援しているファン、サポーターのために戦っている。このチームのために全力を尽くす。それ以外に、自分がすべきことなんてないよ」

 190センチを越す大柄なドイツ人選手に強烈なチャージを浴びせる。ボールを奪い取ると、すさまじい推進力で敵陣へ進撃する。チームメートの浅野が感嘆の言葉を漏らす。

「僕は今まで、あれほどクリーンに、力強くボールを奪い取る選手を見たことがないです。ハジくんはそれほど身長は高くないし、体重もある選手じゃないのに、ピッチに立つと、とてつもなく大きく見えるんですよね」

 浦和、アウクスブルク、レバークーゼン、ヘルタ、ブルサスポル、そしてシュツットガルト。細貝は常にチームのために自らの存在意義を示してきた。そんな彼が日本代表に無関心を装うのは、強烈な自我の裏返しでもある。

清廉な意思は揺るがない

シュツットガルトの澄み切った青空の下で、細貝は今日も闘っている 【島崎英純】

 ブンデスリーガ2部の第6節、首位のブラウンシュバイクと対戦したシュツットガルトはホームで2−0の完勝を果たした。まだ住居が決まっていない細貝はスタジアムから徒歩2分のホテルに着いて部屋に入ると、タブレットを開いて何やら映像を見ている。それは先ほど終了したばかりのゲームの細貝のプレーだけを切り取った分析映像だった。

「このパスは駄目。試合開始直後に拓磨へパスを出そうとしたけどズレた」
「このチャージは甘い。もっと深くいかないとボールを取れない」
「何でこのプレー選択をしたんだろう? もっと周囲を観察する余裕を持たないと」

 反省の言葉ばかりが並ぶ。良いプレーへの反応は一切なく、失敗したプレーばかりを繰り返し見ている。

 そう言えば、なぜシュツットガルトのクラブハウスは新築のものをユース選手が使用して、トップチームの選手には古めかしい建物があてがわれているのだろう。素朴な疑問を細貝に当ててみた。

「それはドイツの文化なんじゃないかな。伝統を重んじる。古きものに敬意を払う。新しいものばかりに飛びつくんじゃなくて、歴史に対して真摯(しんし)に向き合っているんだと思う」

 経験に裏打ちされた強さを身につける。所属するチームに己の身を捧げる。その頭上には澄みきった青空が広がっている。清廉な意思は揺るがない。ドイツ連邦共和国南西部・バーデン=ヴュルテンベルク州の州都で、誇り高き選手が闘っている。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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