新生ラグビー日本代表が始動 ジョセフHCはコミュニケーション重視

斉藤健仁

ユース世代、7人制の指導者も集まる

スーパーラグビーでも手腕を発揮しているトニー・ブラウン氏がアタッキングコーチを務める 【斉藤健仁】

 エディー・ジャパン時もそうだったが、ジョセフHCは、ラインアウトやモール、ブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)といった部分は自ら指導するが、それ以外は信頼できるコーチに任せる体制を取っている。アタッキングコーチには、ハイランダーズでも手腕を発揮し、ジョセフHCと同じく日本でプレーしていた元三洋電機(パナソニック)のトニー・ブラウン氏を招聘、また現代ラグビーでは欠かすことができないストレングス&コンディショニングのコーチにも、ハイランダーズで指導していたサイモン・ジョーンズを招聘。分析にはエディー・ジャパンやリオデジャネイロ五輪に帯同していた中島正太氏らが就任、スクラムコーチは、ヤマハ発動機のスクラムを鍛え上げた長谷川慎氏の就任が決定している。

 同時に、サンウルブズやパナソニックのアタックコーチを務めるパナソニックの田邉淳コーチもブラウン氏とともに選手たちを指導。その他にも合宿には、薫田真広ディレクター・オブ・ラグビー、来年からサンウルブズのヘッドコーチに新たに就任したフィロ・ティアティア氏、U20日本代表やジュニア・ジャパン、そしてアジアの大会の日本代表を率いた中竹竜二氏、中竹氏とともに若い世代を指導している遠藤哲FWコーチ、7人制男子日本代表の指揮官である瀬川智広氏も練習の姿も見えた。今後、ジョセフHCはトップリーグの各チームの指揮官にも合宿を見学する機会を積極的に促すという。

 今後、ジェイミー・ジャパンの戦術や戦い方を、ジュニア・ジャパン、U20日本代表と若い世代と共有することで、誰が呼ばれてもすぐにチームになじむことができるようになろう。まさしく「オールジャパン」での船出となった。

「スモウ」、「ドヒョウ」というコールも

初選出のSO小倉(NTTコム)。「ボールをどんどん動かす」ゲームプランではSOの判断が重要になりそうだ 【斉藤健仁】

 またジョセフHCのコーチングの手腕の片鱗も見えた。ジョセフHCにとって、ハイランダーズで4年間プレーしていたSH田中、同チームに短期留学していたSO田村優以外は、初めて指導する選手がほとんどだ。そのため、2回しかないセッションだったが、「練習のはじめに見られたように楽しい要素も入れていきたい。選手がワクワクして取り組めるような環境を整えていきたい」とゲーム性に富んだタッチフットのような練習から始めていた。

 また、アルゼンチン戦まで練習時間がなかったということも影響しているかもしれないが、ジョセフHCのコーチングは「シンプル」、「わかりやすい」と選手たちは声をそろえるように、ポジション別に何をすべきかの役割、仕事を明確化。今回の合宿は「ゲームプランの徹底」として「ボールをどんどん動かす」ため、グラウンドでの攻撃時のボールの動かし方、そしてアンストラクチャー(崩れた局面)からの攻撃に時間を割いたが、例えばタイトファイブ(FWの前5人)がスペースを作り、ハーフ団がスペースを突く、WTBは大外でプレーしラックを作らずボールをつなぐといった具合である。またFWのアタック・シェイプ(陣形)を「スモウ(相撲)」、ボールを一端、中央に戻すことを「ドヒョウ(土俵)」と呼ぶなどの工夫も見られた。

準備期間は少ないが、幸先の良いスタート

明るい笑顔を見せる日本代表。11月にはW杯4強のアルゼンチンなど4カ国と対戦する 【斉藤健仁】

 今回のミニキャンプは、トップリーグ期間中に行われたものであり、もちろん、エディー・ジャパン時代のような朝5時からのトレーニングはなかった。だが、1回目としては非常にポジティブであり、指揮官の言葉を借りれば「promising(期待できる)」な内容だったと言えよう。

 初の合宿を終えて、ジョセフHCも「とても成功裏に終わったキャンプだと思います。16名の新しく選出された選手たちは、とてもワクワクした気持ちで臨んでいました。とにかく選手に会えて良かった」と総括した。11月のテストマッチ4連戦は、どの相手も日本より格上で、厳しい戦いになるのは必至だ。一方で、どうしてもW杯まで「もう3年しかない」と考えてしまいがちだが、ジョセフHCは「まだ3年ある」とも言い切った。

 準備期間が少ない、主力選手の試合数過多、リーチらの代表辞退などの問題もある一方で、いずれにせよ、ジェイミー・ジャパンは幸先の良いスタートを切ったことは間違いない。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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