マリナーズ、プレーオフ進出へ奮闘中 絶望的な状況から9月に巻き返す

丹羽政善

自身最多となる16勝を挙げ、チームを支える岩隈 【Getty Images】

 28日(日本時間29日)のアストロズ戦に勝って、マリナーズは首の皮一枚つながった。

 前日の試合で、エースのフェリックス・フェルナンデスが逆転を許し敗戦。その状況で土俵際まで追いつめられながら残った。見事な粘り腰である。そもそもここまで何度も“終わった”とファンにも見放されながら、盛り返して来たのが今年のマリナーズ。ただ、あのとき――1カ月ほど前には、さすがに死に体に見えた。もう、残す余力はないと思われた。

 9月2日のことである。

 クラブハウスに入ると冷凍庫を開けた瞬間に感じる冷気にも似た、これまで感じたことのない一種異様で押しつぶされるような重い空気が漂っていた。選手1人1人の表情も暗い。いつもならどこからともなく聞こえる笑い声もない。自分のロッカーにいた岩隈久志に肌を通して感じたことをそのまま伝えると、少し顔を向けただけで何も口にしなかった。察してください、とでも言わんばかりに。

 マリナーズは、直前のシカゴ、テキサスの遠征で1勝6敗。8月30日のレンジャーズ戦では9回にサヨナラ負けを喫し、翌31日は、前日の敗戦を引きずったかのような展開となり1対14で大敗。遠征前、地区優勝を逃したチームの中から勝率上位2チームがプレーオフに出られるワイルドカード争いで3ゲーム差の3位につけ、2001年以来のプレーオフ出場が現実味を帯びていたが、戻って来たときにはその差が4ゲームに開き、間に3チームが挟まっていた。ゲーム差以上にこの3チームの存在が厄介だった。

 ホームに戻って初戦となった9月2日の試合に、わずか1万6775人のファンしか球場に足を運ばなかったことが、チームの置かれた状況を如実に現していたのではないか。
 地元のスポーツラジオでは、総括も始まった。

「惜しかった」

「いや、ここまでよく頑張ったんじゃないか」

 今季は終わった、という前提である。

パクストンとウォーカーが快進撃を支える

 ところがマリナーズはのど輪で押し込まれ、土俵際で体が弓なりになったところから、相手ののど輪を外し逆襲に転じた。9月7日から破竹の8連勝。圏外から一気にまくった。

 その間、岩隈は2勝を挙げ、16勝でシーズン自己最多勝利も更新。6回4安打、1失点と好投した26日のアストロズ戦では鬼気迫るものがあったが、何よりも24歳のタイワン・ウォーカーと27歳のジェームズ・パクストンという2人の成長が、快進撃を支えた。

 チームとしてはこれまで、将来の先発ローテーションの核を担う逸材として大切に育ててきた2人。他チームがトレードで獲得を狙うような魅力ある投手でもあった。しかし、パクストンは故障が多く、ウォーカーは不安定。ポテンシャルを感じさせるときももちろんあったが、ここ数年、ともに波が激しかった。どうだろう、仮に今年も2人が期待通りの投球ができなければ、マリナーズとしては将来の構想に関して、見直しを迫られたかもしれない。

 しかし、ついにその“将来”が訪れた。

 パクストンは連勝が始まった9月7日以降、4試合に先発して、25イニングを投げ、自責点8。防御率2.88。4試合すべてで試合を作り、失点は28日の3が最多だ。課題だった制球力もこのところ安定している。ウォーカーも9月7日以降、4試合に先発して、3勝1敗、防御率3.28。13日のエンゼルス戦では完封勝ちを収め、彼もまた4試合すべてで、試合を作っている。

 そういえば8月20日頃のこと。故障と不振でマイナーにいたウォーカーとパクストンについて、岩隈がこんなことを言っていたのを思いした。

「もうすぐ、ウォーカーたちが戻ってくる。そうしたら……」

 その通りになった。

 対照的に誤算となっているのが、フェルナンデス。

 9月7日以降、4試合に先発して1勝2敗。なにより2敗の内容が悪い。16日のアストロズ戦では、5回途中8安打6失点(自責点は5)で連勝を8で止めてしまった。岩隈が、見るものの心を揺さぶる、これでいけるんじゃないかと、ファンを乱舞させた投球から一夜明けた27日のアストロズ戦では、4対2とリードしていた6回裏、フェルナンデスが一挙6点を奪われKOされた。このどちらかをものしてみれば、今頃どうなっていたか……。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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