初パラで厳しさ味わう一ノ瀬メイ 強く感じた「勝たなおもろない」

斎藤寿子

気持ちを表現する母校のスローガン

トップスイマーたちと肩を並べたいと近畿大に進学。そのスローガンでもある「勝たなおもろない」でパラリンピックの残り種目で納得の泳ぎを目指す 【写真は共同】

 一ノ瀬が本気で「強くなりたい」と思ったのは、高校3年の時に参加したヨーロッパ遠征だった。彼女にとって、それが初めてのアジア以外の海外遠征。見るもの聞くものすべてに刺激されたという。

「世界ランキングの上位にいる、それまで名前でしか見たことのなかった有名な選手たちの泳ぎを初めて生で見たんです。招集所にいる時からオーラがあって、すごくかっこ良かった。自分もああいう選手になって、勝負できるようになりたいと思いました」

 トップスイマーたちの堂々たる姿、そして会話からうかがえるライバル同士で認め合った姿が、一ノ瀬にはまぶしく見えた。

「強いって、いいな。このステージに上がれたら、勝負が面白いだろうな」

 世界のトップたちと同じ景色を見たいという思いが募った。それが、1年後の進路の決め手ともなった。

 実は当時、一ノ瀬は高校卒業後の進路に悩んでいた。水泳をどの位置に置くか、それによっては大学選びも変わってくるからだ。しかし、その遠征で彼女の悩みは一気に解消された。

「ある程度、水泳でいこうと傾いていたんです。でも、まだ決めきれていなかった。そんな時に遠征に行って、トップ選手たちの姿を見た時に、『よし、やっぱり水泳でいこう』と最終決断を下しました」

 地元・関西での競技生活を望んだ一ノ瀬は、2015年、近畿大学に進学し、五輪選手を輩出している水上競技部に入部した。同部が練習を行うプールサイドには、こんなスローガンが貼られている。

「勝たなおもろない」

 まさに一ノ瀬の気持ちを表現している。初出場をかなえたリオパラリンピックでの目標は、そのステージに立つことにあった。

「とにかく世界と競り合うレースをしたいんです」

 しかし、リオでの戦いは予想以上に厳しいものとなっている。世界と競り合うレースができていない自分にふがいなさを感じてもいる。だからこそ、あらためて強く思っているはずだ。「勝たなおもろない」と――。そして、それこそが一ノ瀬にとって大きな財産となるに違いない。

「1本1本のレースをかみしめて泳ぎたい」

 一ノ瀬にとって、リオパラリンピックはこれで終わりではない。厳しい状況だからこそ、やるべきことがある。

「先輩に言われたんです。『初めてのパラリンピックは、分からないことだらけで、気づいたら終わっていたということがよくある。でも、それだけはするな』って。だから、しっかりと1本1本のレースをかみしめて泳ぎたいと思います」

 リオでの戦いは、まだ始まったばかり。体と感覚が一致した、納得のいく泳ぎで、世界に果敢に挑んでほしい。

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