タイは日本に勝てるとは思っていない? チョンブリFCマネージャー・小倉氏に聞く

宇都宮徹壱

つなぐサッカーを志向するキャティサック監督

セーナームアン監督は「指導者として国内で実績を積み上げているので、タイの人々からの評価も高い」という 【宇都宮徹壱】

──監督のキャティサック・セーナームアン氏は、現役時代はタイ代表として活躍し、指導者に転じてからはチョンブリでも指導をしていますが、何か情報はお持ちですか?

 僕自身は彼と一緒に仕事をする機会がなかったので、客観的な情報しか持っていないのですが、非常に紳士的で、イングランドでプレーしたこともある国際派です。指導者として国内で実績を積み上げているので、タイの人々からの評価も高いですが、まだ若いですから、アジアでの実績づくりはこれからといったところですね。志向としては、パスをつなぐサッカー。もともとタイの選手は足元がうまいので、ちょっとした“ティキ・タカ”(パスをつなぐ)サッカーができるんですよ。ただ、なかなかゴールが決まらないんですけど(笑)。

──日本もその傾向が見られますよね(笑)。では、日本が気をつけなければならない選手を何人か教えてください。

 まず、日本でも話題になっている10番のゴールゲッター、ティーラシル・ダンダですね。フィジカルもかなり強い選手です。それから「タイのメッシ」と呼ばれ、Jクラブの獲得がうわさされるチャナティップ・ソンクラシン。

 ティーラトン・ブンマタンは、左足のセットプレーが得意で、昨年のACLではガンバ大阪を相手に直接決めているので要注意です。あと変わったところだと、U−17W杯でスイス代表として活躍していたシャリル・シャピュイ。センスは折り紙つきですが、今はけが明けなので、どれだけポテンシャルを発揮できるかはちょっと微妙です。

──試合はどんな展開になると予想しますか?

 ホームなのでベタ引きにはならないと思います。しかも、タイ代表は会場が盛り上がるとイケイケドンドンのサッカーになる傾向があるんですよ。当日はスタジアムが満員になるので、その可能性が高いと思うんですが、そうなると選手は監督の言うことを聞かなくなる(笑)。そこをキャティサック監督がいかにコントロールしていくかが鍵になると思います。

アジアでの日本の優位性は崩れてきている

「タイの選手は、日本人選手に対してあまり苦手意識はないと思います」と小倉さん 【宇都宮徹壱】

──タイ代表に勝機があるとしたら、どんな展開になることが条件でしょうか?

 日本がシュートを外しまくることですよね(笑)。いくらパス回しがうまくても、サッカーは点を取らないと勝てませんから。それとタイの選手は、日本人選手に対してあまり苦手意識はないと思います。タイ・プレミアリーグでは、多くの日本人選手がプレーしていますが、実際に助っ人として一目置かれているのはほんの一握りです。それに15歳以下の大会だと、タイが日本に勝ったりしていますからね。現状では日本の実力はまだまだ上ですが、10年後にどうなっているかは分かりません。

──ラジャマンガラスタジアムで日本代表を迎えることについて、タイのサッカー関係者はどのように受け止めているのでしょうか?

 アジア最終予選に進むのは久しぶりなので、張り切っているのは間違いないです。ただ、日本に勝てるとは正直思っていないんじゃないですかね。「引き分ければラッキー」くらい。だから、日本もそんなにビビる必要はないと思いますよ。

──では、小倉さんご自身が試合に期待することは?

 個人的には、日本に快勝してほしいですね。そして(日本とタイの)立ち位置をはっきりさせほしい。正直なところ、アジアにおける日本の優位性というものが崩れてきています。ACLでもずっと優勝していないし、アジアカップでもベスト8止まり。アジアのサッカー界で働いているわれわれも、存在感がどんどん薄れてきているんですよ。「もう日本人じゃなくても、いいんじゃないか?」みたいな感じで(苦笑)。

──それは死活問題ですね。

 そうなんですよ。でも確かに、最近の日本サッカーはアジアでは上のレベルにいるのに、実績が伴っていないのは事実です。この状況が続くと、僕らの仕事がなくなってしまう(笑)。それもあるから、明日の試合では日本にしっかり勝ってほしい。もちろん、最近のタイのサッカーは伸びてきていますけれど、それでも日本のサッカーから学ぶべきところは、まだまだ少なくないと思っています。

※このインタビューは6日のタイ戦前日に行われました。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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