3000安打達成後にイチローが語ったこと 試合後会見での言葉をひも解く
自分なりに説明ができるプレーを――
ベンチからは真っ先にゴードン(手前)が飛び出してイチローを祝福した 【Getty Images】
「この2週間強ですね、ずいぶん、犬みたいに年を取ったんじゃないかと思う」
3000安打へ残り4本として本拠地10連戦を迎えたが、わずか2安打に終わり、記録達成は遠征に持ち越しとなった。オールスター明けからメディアの数は増える一方。一気に老けたか、と感じるほどストレスを感じていたようだ。そのときの胸の内をこう明かしている。
「人に会いたくない時間もたくさんありましたね。だれにも会いたくない、しゃべりたくない。僕はこれまで自分の感情をなるべく殺してプレーをしてきたつもりなんですけど、なかなかそれもうまくいかず、という苦しい時間でしたね」
よって打った後、こう安堵したそうだ。
「これはみなさんもそうですけど、これだけたくさんの経費を使っていただいて、ここまで引っ張ってしまったわけですから、本当に申し訳なく思いますよ。それはもうファンの人たちの中にもたくさんいたでしょうし、そのことから解放された思いの方が、思いの方がとは言わないですけど、そのことも大変大きなことですね、僕の中で」
イチローの1本1本のヒットの意義を問う質問に対する答えも興味深い。
「ただバットを振って、それ以外もそうですね、走ること、投げること。すべてがそうですけど、ただそれだけで3000(安打)はおそらく無理だと思いますね。瞬間的に成果を出すことはそれでもできる可能性はありますけど、それなりに長い時間数字を残そうと思えば、当然、脳みそを使わなくてはいけない。使い過ぎて疲れたり、考えていない人にあっさりやられることもたくさんあるんですけど、自分なりに説明ができるプレーをしたいというのは僕の根底にありますから、それを見ている人に感じていただけるなら幸せですね」
なぜこういうスイングをしたのか? なぜこういう打球になったのか? イチローはその一つ一つを説明できる。「脳みそを使いすぎて疲れたり、考えていない人にあっさりやられる」くだりでは、笑いが起きた。
「達成感を味わうほど前に進める」
「達成感って感じてしまうと、前に進めないんですか? そこがそもそも僕には疑問ですけど、達成感とか満足感は、僕は味わえば味わうほど、前に進めると思っているので、小さなことでも満足感、満足することはすごく大事なことだと思うんですよね。だから僕は今日のこの瞬間、とても満足ですし、それを味わうとまた次へのやる気、モチベーションが生まれてくると、これまでの経験上、信じているので、これからもそうでありたいと思っています」
この程度で満足していたら……という考えはイチローにない。イチローは満足する――どんなことにも。それを次の目標につなげていく。
「いいじゃないですか、満足しても」
イチローは「肩の力を抜こうよ」とでも言いたげだった。