国民の関心が低い、五輪セレソン ネイマール中心に皆で目指す金メダル
日本戦はまずまずの手応え
五輪大会前、日本代表と唯一の親善試合を行ったブラジル代表。まずまずの手ごたえを得た 【写真:ロイター/アフロ】
前半、積極的にガブリエウ・バルボサ(通称ガビゴウ)、ガブリエウ・ジェズス、フェリペ・アンデルソン、ネイマールがポジションを入れ替えながら、スピードと個人技で積極的に日本ゴールを襲った。ボールポゼッションは完全にブラジル側にあり、守備はトップのガブリエウ・ジェズスから始まり、ディフェンスラインはセンターラインまで上がって日本勢をプレスし続けた。ついに前半33分、ガビゴウがドリブルで日本の堅い守備を突破して先制ゴールを決めた。
「10日という限られた時間なので、われわれのシステムはAプランとBプランしか持っていない」と指揮官が言うように、戦術の手のうちが限られている場合、解決策は個の力とセットプレーだ。
キッカーに選ばれたネイマールはFK、CKと徹底的に練習をした。日本戦ではFKが惜しくもクロスバーに当たったシーンもあったが、CKからマルキーニョスがヘッドで合わせて2点目をゲットした。
しかし、親善試合のお約束のように、後半はコンパクトなサッカーから徐々に離れ、システムが間延びして、守備から攻撃までのボール運びがすっかりスローになってしまった。前半に飛ばし過ぎたこともあり、足があまり動かず疲れの見える選手もいた。そこをネイマールは個人技で解決しようと、自分本位のプレーになりすぎた感は否めない。また、中盤のマークの受け渡しを徹底するなど、さらに改善が必要な課題はまだまだある。それでも、リザーブ選手のテストもできて、テストマッチとして日本戦は大変有効であった。
ブラジルにおける五輪サッカーの存在価値
育成年代の指導経験が豊富なミカーレが、選手リスト提出のわずか数日前に正式に五輪監督に就任 【Getty Images】
「リオ五輪でメダルが期待できる競技は?」という質問に対し、一番に挙げられるのはバレーだ。
ではサッカーは? 「うーん、だめなんじゃない」と素っ気ない反応が返ってくる。というのも、みんな五輪代表のことをよく知らないのだ。
ブラジルのサッカー五輪代表はアトランタ、シドニー、北京、ロンドンとA代表の監督が兼任する形を取ってきた。A代表のおまけ的存在で、五輪のために特化したチーム作りや準備をしなくともどうにかなるというやり方だったため、あまり重要視されてきていないのだ。もちろん、そんなことでは簡単に金メダルが取れるものではなかったのだが……。
しかし、今回、大会直前に慣例が覆された。6月に行われたコパ・アメリカ・センテナリオの予選リーグ敗退を受け、A代表のドゥンガ監督が解任されたのだ。そして、すぐさま国内ナンバー1監督と評されるチッチの監督就任が決まった。これは久々にセレソン(ブラジル代表)の明るいニュースとなった。ただ、五輪直前の交代劇とあって、いきなりチームを引き受けられるのか心配された。
「私は、五輪代表は指揮しない。これまでずっと指導してきたミカーレ監督に任せる」
チッチは話し合うべきことは話し合い、協力は惜しまないが、チームを作ってきたミカーレ監督を信用して任せたほうがいいと判断した。こうして選手リスト提出のわずか数日前に正式にミカーレが五輪監督に就任したのだ。ミカーレは2015年からU−20代表監督として世界大会準優勝に導き、さらにU−23代表を率いてパンアメリカン大会で銅メダルを取っている。チッチ監督は、選手たちからも信頼を勝ち取っているミカーレに一任するという、実にまっとうな判断をした。
育成畑を歩んできたミカーレ監督
47歳のミカーレ監督は育成のスペシャリストで、これまでに、さまざまなクラブの育成世代を指導してきた。プロチームの監督をわずかしか経験していないため、メディアに出ることはほとんどない。元プロ選手で、小さなクラブのGKをしていた。現役引退後、育成世代の指導から、徐々に有名クラブの下部組織で働くようになり、これまで17年間、育成畑を歩んできた。そして名門アトレチコ・ミネイロでの実績が認められ、15年にブラジル代表U−20の監督に就任した。
目指すサッカーはオランダにインスピレーションを得た現代的なオフェンシブスタイル。コンパクトなスペースで全員が攻撃し、全員が守る。ミカーレ監督の好きな言葉は“カオスな攻撃”。カオスとは「混沌とした」という意味があるが、好き勝手ということではなく、秩序を持ちながらもゴール前で相手をかく乱するようなスピード感とドリブルを駆使した攻撃のことだ。ボランチもサイドバックも常に攻撃のチャンスをうかがう。システムは4−2−4をベースとしたバリエーション。攻撃と守備の素早いトランジションと、素早いポジショニングの移動は攻守関係なく、すべての選手に求められる。
攻撃では両サイドを駆使し、リスクを恐れずシュートを放つ。守備は相手の攻撃の芽を早い段階で摘めるように、FWから積極的にボールを奪いにいき、イタリアの“カテナテオ(堅い守備)”のごとくがっちりとしたディフェンスを要求する。セットプレーではネイマールのテクニックを可能な限り活用。「監督はポジショニングをすごく大事にする」とネイマールが言うように、常にゲーム全体の中で、自分のポジショニング考えることを求める。
「選手はロボットになる必要はない。自分で考えて行動すべきだ」
ミカーレ監督は仕事にはストイックなところがあるが、選手のセンスを生かす考えを持つ。家族をすごく大事にする暖かい一面を持ち、ひとたび仕事を離れるとジョークを飛ばしてばかりいるという明るい人物だ。しかめっ面のドゥンガとは、人物像もスタイルもかなり路線が変わった。