西武・大石達也の今後の生きる道 6球団競合男に秘められた覚悟
強くなった真っすぐ、変わった内面
ケガから開放され、「今はバッターと勝負できている」と内面の変化が出てきた大石 【写真は共同】
ひとつは投球フォームだ。肩の痛みが軽減されたことと、春季キャンプから体重移動を見直したことで、投げ方が変わってきた。潮崎コーチは「本人にしかわからないくらいの違い」というが、大石には確かな手応えがある。
「肩があまり痛くなくなってからは、上は下についてくるものだと考えて、下を先に動かす意識でやっています。極端に言ったら、ギリギリまで右足に体重乗っけて、左足に移行する瞬間を一瞬で終わらせる。自分でも投げている感覚が以前と全然違うので、多少気持ち的に余裕があると思います」
捕手の炭谷銀仁朗は、大石が今季見せる変化をこう指摘する。
「真っすぐが強くなりましたね。真っすぐでゾーン内で勝負できています」
もう一つの違いは、大石自身の内面にある。
「昨年、一昨年はたまに試合で投げても、対バッターと勝負というより、『肩の痛みは大丈夫か』と自分と戦っているような感じでした。だから、野球をやっている感がまったくなかった。今は相手バッターと勝負できているので、野球をやっているなという感じです」
自分の理想に近づくために――
24日は2イニング目の7回、本多雄一には外角低めいっぱいに143キロのストレートで見逃し三振、続く柳田悠岐は内角低めの厳しいコースに144キロのストレートを投げ込み空振り三振に仕留めた。26日の北海道日本ハム戦では7回、中田翔の胸元に142キロのストレートを投じて見逃し三振に打ち取っている。
中田を三振に仕留める過程で、伏線になったのが2ボール1ストライクから外角低めでバットに空を切らせたスライダーだ。大石が振り返る。
「スライダーで空振りを取れたのが大きかったですね。あそこでバッターが次の球として考えるのは、真っすぐかフォーク。あのスライダーのおかげで投球に幅が出ましたね。それでインコースに真っすぐ1球で仕留められたのが良かったです」
今季、大石のストレートはスピードやキレ、強さが戻りつつあり、前述したソフトバンク戦での本多と柳田、そして日本ハム戦の中田への3球はいずれも指にかかったボールだったと本人も話している。
ただし、ストレートだけで抑えられるほどではない。だからこそ大石は「たまたま」抑えていると話し、事実、百戦錬磨の井口には狙われたストレートが失投になって仕留められている。
そのロッテ戦の前、大石はこんな話しをしていた。
「まずは常時145キロくらいに持っていきたいですね。そうすれば150キロとか、それに近くなってくると思うので。今はファウルになっているけど、そこをもっと空振りを取れるようになれば、自分の理想に近づくと思います」
もがきながらも明るい兆し
「スライダーはストライクが取れればいいですね。曲げようとか、いいところに投げようと思わないで、楽な気持ちで投げています」
まだまだ入団前に期待されたような姿からは程遠い。だが昨年までと比べ、大きく前進しているのは間違いない。だからこそ、2軍で3年間指導してきた潮崎コーチはこう話している。
「本来は、もっとやってもらわないとあかんからね。これくらいで喜んでもらっちゃ困るくらいの人間。本来、もっと上まで行けていい人間だから。まだまだ、まだまだ」
人間が欲を語るのは、何より希望や期待の表れだ。2軍で近くから見守ってきた潮崎コーチにも、明るい兆しが見えてきたのだろう。
大石の進む道は、決して「復活」ではない。6球団にドラフト1位指名された男はまだ、プロの世界で何も成し遂げていないのだ。
苦しみ続けた大器は、今季、結果を出そうと必死でもがいている。