西武・大石達也の今後の生きる道 6球団競合男に秘められた覚悟

中島大輔

強くなった真っすぐ、変わった内面

ケガから開放され、「今はバッターと勝負できている」と内面の変化が出てきた大石 【写真は共同】

 それから2シーズン後の現在、大石は1軍のマウンドで以前と異なる姿を見せている。

 ひとつは投球フォームだ。肩の痛みが軽減されたことと、春季キャンプから体重移動を見直したことで、投げ方が変わってきた。潮崎コーチは「本人にしかわからないくらいの違い」というが、大石には確かな手応えがある。

「肩があまり痛くなくなってからは、上は下についてくるものだと考えて、下を先に動かす意識でやっています。極端に言ったら、ギリギリまで右足に体重乗っけて、左足に移行する瞬間を一瞬で終わらせる。自分でも投げている感覚が以前と全然違うので、多少気持ち的に余裕があると思います」

 捕手の炭谷銀仁朗は、大石が今季見せる変化をこう指摘する。

「真っすぐが強くなりましたね。真っすぐでゾーン内で勝負できています」

 もう一つの違いは、大石自身の内面にある。

「昨年、一昨年はたまに試合で投げても、対バッターと勝負というより、『肩の痛みは大丈夫か』と自分と戦っているような感じでした。だから、野球をやっている感がまったくなかった。今は相手バッターと勝負できているので、野球をやっているなという感じです」

自分の理想に近づくために――

 7月19日のロッテ戦で打たれた後、大石は4試合続けて好投を見せている。特に目に付いたのが24日の福岡ソフトバンク戦と、26日の北海道日本ハム戦だ。

 24日は2イニング目の7回、本多雄一には外角低めいっぱいに143キロのストレートで見逃し三振、続く柳田悠岐は内角低めの厳しいコースに144キロのストレートを投げ込み空振り三振に仕留めた。26日の北海道日本ハム戦では7回、中田翔の胸元に142キロのストレートを投じて見逃し三振に打ち取っている。

 中田を三振に仕留める過程で、伏線になったのが2ボール1ストライクから外角低めでバットに空を切らせたスライダーだ。大石が振り返る。

「スライダーで空振りを取れたのが大きかったですね。あそこでバッターが次の球として考えるのは、真っすぐかフォーク。あのスライダーのおかげで投球に幅が出ましたね。それでインコースに真っすぐ1球で仕留められたのが良かったです」

 今季、大石のストレートはスピードやキレ、強さが戻りつつあり、前述したソフトバンク戦での本多と柳田、そして日本ハム戦の中田への3球はいずれも指にかかったボールだったと本人も話している。

 ただし、ストレートだけで抑えられるほどではない。だからこそ大石は「たまたま」抑えていると話し、事実、百戦錬磨の井口には狙われたストレートが失投になって仕留められている。

 そのロッテ戦の前、大石はこんな話しをしていた。

「まずは常時145キロくらいに持っていきたいですね。そうすれば150キロとか、それに近くなってくると思うので。今はファウルになっているけど、そこをもっと空振りを取れるようになれば、自分の理想に近づくと思います」

もがきながらも明るい兆し

 今後のカギになるのは、ストレートの質を高めつつ、中田の打席のようにスライダーでいかにストライクを取っていくか。変化球でカウントを取れれば、ストレートはさらに生きてくる。

「スライダーはストライクが取れればいいですね。曲げようとか、いいところに投げようと思わないで、楽な気持ちで投げています」 

 まだまだ入団前に期待されたような姿からは程遠い。だが昨年までと比べ、大きく前進しているのは間違いない。だからこそ、2軍で3年間指導してきた潮崎コーチはこう話している。

「本来は、もっとやってもらわないとあかんからね。これくらいで喜んでもらっちゃ困るくらいの人間。本来、もっと上まで行けていい人間だから。まだまだ、まだまだ」

 人間が欲を語るのは、何より希望や期待の表れだ。2軍で近くから見守ってきた潮崎コーチにも、明るい兆しが見えてきたのだろう。

 大石の進む道は、決して「復活」ではない。6球団にドラフト1位指名された男はまだ、プロの世界で何も成し遂げていないのだ。

 苦しみ続けた大器は、今季、結果を出そうと必死でもがいている。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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