育成型クラブとしての負けられない戦い J2・J3漫遊記 G大阪&C大阪U-23 前編

宇都宮徹壱

「育成のトップ」としてのC大阪U−23

C大阪U−23の大熊裕司監督。敗れたものの「ガンバさんとの差は、多少は縮まってきている」と語る 【宇都宮徹壱】

 仮説を立てたところで、それぞれのU−23チームの指揮官の言葉に耳を傾けることにしたい。まずはC大阪U−23の監督、大熊裕司。大熊はトップチームの監督である大熊清の実弟であり、C大阪との縁はトップチームのヘッドコーチを務めた05年にまでさかのぼる。その後、07年から09年までJFA(日本サッカー協会)のナショナルコーチングスタッフとなるも、10年からC大阪のアカデミーダイレクター兼U−18監督となり、今季よりU−23を率いている(なお14年には暫定でトップチームの監督も務めている)。まずは、今回のダービーについて、対戦相手との比較という観点から語ってもらった。

「やはりガンバさんには、技術に長けた選手が育成年代に多いですね。(ダービーの)前半のように待ち構えてプレーしてしまうと、相手の良さばかりが出てしまって、逆にわれわれの積み上げてきたものが発揮しにくくなる。それでも後半のように、攻守にわたってハードワークしていくことで、われわれの良さは出せたように思っています。確かに試合には敗れたし、育成年代ではなかなか太刀打ちできる関係ではなかった。それでもガンバさんとの差は、多少は縮まってきているという実感もあります」

 ここで気になるのが、ライバルとのU−23の位置づけの違いである。G大阪は現状ではU−23を「純然たるセカンドチーム」と定義しており、トレーニングは基本的にトップチームと一緒に行っている。ではC大阪におけるU−23の位置づけは、どのようなものなのだろうか?

「ウチのU−23は『育成のトップ』という考え方でやっています。ですので、練習もトップチームとはまったく別です。斧澤(隼輝)と森下(怜哉)については、今年高3になりますが、トップに近いところにいるので今はU−23のほうで活動しています。逆に丸岡(満)とか澤上のように、普段はトップにいる選手がぽっと入ってきますから、連携面で多少はスムーズさに欠けるところも出てくる。それでも、これまで積み上げてきたものができているか、よりよいゲーム環境の中でプレーできているかを重視しています」

「育成のトップ」であり、同時にU−18とトップチームをつなぐ役割も兼ねているC大阪のU−23。長年、アカデミーダイレクターの重責を担ってきた大熊にとり、このカテゴリーの新設は願ってもないことであったと言う。

「U−18からトップに上がってきた選手の場合、最初の1〜2年はなかなか試合に出られないわけです。そこを打破するには、『しっかりとしたゲーム環境を与えることが一番』という結論に達しました。今回、J3でU−23チームの加入が認められることになったとき、真っ先に手をあげてくれたクラブには本当に感謝しています。J3という環境で、これまで積み上げてきたものを具現化して、トップによりよい選手を送り出すこと。そして最終的には、トップの選手がアカデミー出身の選手たちで構成されることが、われわれの目的です」

4人のU−19日本代表を抱えるG大阪U−23

G大阪U−23の實好礼忠監督。今の仕事にやりがいを感じながらも「責任重大」と気を引き締める 【宇都宮徹壱】

 G大阪U−23チームを率いる實好礼忠は、立命館大を卒業して95年に加入して以来、07年までの13シーズンにわたりG大阪一筋でプレーしてきた。現役引退後は、名古屋グランパスでの2シーズン(14〜15年にヘッドコーチ)を除き、G大阪のユースとトップでコーチを務め、今季からU−23の監督に就任。J3での大阪ダービーについては「やっぱり意識しますね。現役時代の記憶に加えて、セレッソさんとはアカデミーでもライバル関係がありますから」と、指揮官として少なからぬプレッシャーを感じていたことを明かした。その一方で、現在のポジションにはやりがいを感じているとも。

「立ち上がったばかりのチームですが、今ある環境でいかに選手を成長させていくかがテーマです。トップチームに選手を送り込むことももちろんですが、現在はU−19の日本代表が4人います。彼らの才能を伸ばしながら、ほかの若い選手もアンダー世代の代表に送り込みたい。その意味でも、やりがいがあると同時に責任重大だと思っています」

 G大阪といえば、昔も今も若きタレントの宝庫である。最近ではオランダの名門、PSVアイントホーフェンが堂安にオファーをしていたことが話題になった(結局、当人は残留を選択)。そんな彼らにとって、J3という舞台に不満を持つ選手も出てくるのではないか、という不安もよぎる。

「おっしゃるとおり、トップでプレーできずに悔しい思いをしている選手がいるのは事実です。ですから最初の頃は、彼らのモチベーションを持たせることも自分の仕事だと思っていました。でも最近は、ほとんどの選手が『ここでしっかり結果を出して、トップに行ってやろう』という気持ちでやってくれています。それにJ3という試合環境は、若い選手のためになっているとも思います。他のチームはJ2を目指してトレーニングしていますし、何といっても公式戦ゆえの緊張感がありますから。セレッソさんとのダービーでも、ブーイングをパワーに変える経験ができましたし(笑)」

 95年加入の實好は、G大阪ユース一期生の宮本恒靖と同期。年齢的には大学サッカー出身の實好が上だが、その後アカデミー出身者がチームの中核を占めるようになり、宮本は今季からG大阪ユースの監督に就任した。實好自身、現役時代はアカデミーへの憧れはあったのだろうか。最後に尋ねてみると、苦笑交じりにこんな答えが返ってきた。

「憧れですか? なくはないですね。あの環境で、もっと『考える選手』になっていれば、もっといい選手になれたかもしれない。ただ、今のユースの選手と一緒に練習すると、まだまだ僕のほうがミスは少ないですよ(笑)。それに、ただうまいだけではいい選手になれませんし。僕自身も30歳を前に大きなけがをして、いろいろ勉強したり、いろいろな人とサッカーについて語り合ったりして、見える風景が変わりました。そうした気付きを、若い選手たちにも伝えていければと思っています」

<後編につづく。文中敬称略>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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