日本戦の大敗から生まれた史上最も攻撃的なドイツ代表 若き戦術家ナーゲルスマンが施した改革とは?
エンターテインメント性に富んだサッカーで、ドイツ代表を上昇気流に乗せたナーゲルスマン(左)。クロース(右)の3年ぶりの電撃復帰もプラスに働いている 【Photo by Stefan Matzke - sampics/Corbis via Getty Images】
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不安と希望が混在していた最後の親善試合
ドイツ代表は自国開催のEURO 2024に向けて、6月7日にギリシャ代表と大会前最後の親善試合を行い、2-1の逆転勝利を飾った。
まさにこの試合には、ドイツが抱える「不安」と「希望」が混在していた。
先制したのはギリシャだった。33分、相手のハイプレスに対し、DFアントニオ・リュディガー(レアル・マドリー)は“逃げ”のクリアをせず、強引にドリブルを開始。10メートルほど前のMFジャマル・ムシアラ(バイエルン)がマークされているにもかかわらず、そこへ縦パスを出してしまった。
ムシアラは相手選手に背後から寄せられ、ボールを奪われる。その流れからシュートを打たれると、GKマヌエル・ノイアー(バイエルン)がまさかのファンブル。こぼれ球を詰められて先制を許してしまった。マドリーとのチャンピオンズリーグ(CL)準決勝第2レグと同じようなミスだ。
しかし、ドイツは守備に危うさを抱えながらも、攻撃力は欧州トップクラスである。後半に入って迎えた55分、MFロベルト・アンドリッヒ(レバークーゼン)の縦パスを受けたMFイルカイ・ギュンドアン(バルセロナ)が、近くにいたMFレロイ・ザネ(バイエルン)へつなぐ。ザネのクロスをカイ・ハヴァーツ(アーセナル)が反転してシュートに持ち込み、流れるような連係から同点弾を決めた。
そして終了間際の89分、クロスのこぼれ球を途中出場のMFパスカル・グロス(ブライトン)が見事なボレーで合わせ、劇的な決勝ゴールを奪った。
執拗に中央を崩そうとしてカウンターからピンチを招き、それでも縦パスを入れまくって鮮やかな連係で得点を奪う──。勝負強いスタイルかは未知数だが、エンターテインメントに満ちていることは間違いない。
ドイツ代表史上、最もリスクを冒して攻めるチームと言っていいだろう。
代表ではシンプルな服装を心掛けるように
21-22シーズンにバイエルンをリーグ優勝に導いたナーゲルスマンだが、ノイアー(左)ら主力選手との確執も囁かれた。微修正したのはマネジメントスタイルと服装だ 【Photo by Markus Gilliar - GES Sportfoto/Getty Images】
昨年9月、ドイツは日本をホームに招き、親善試合を行った。1-2で敗れたカタール・ワールドカップ(W杯)のリベンジマッチである。だが、ドイツは1-4という屈辱的なスコアで再び日本に敗れてしまう。
翌日、ドイツサッカー連盟はハンジ・フリック監督を解任。自国開催のEURO 2024まで1年を切っている中で迎えた危機だった。
ドイツ代表のスポーツダイレクター、ルディ・フェラー(2002年W杯の準優勝監督)が直後のフランス戦を暫定的に指揮して2-1で勝利したため、当初はフェラーが後任監督になるのではないかという見方もあった。
そんな中、後任に指名されたのが、ドイツきっての若手戦術家、ナーゲルスマン(現在36歳)だった。
ナーゲルスマンは昨年3月にバイエルンの監督を解任され、当時どこも率いていない“フリー“の身。厳密にはまだクラブとの契約が残っていたため、違約金が発生する状態だったが、バイエルンがその権利を辞退。ナーゲルスマンの代表監督就任が実現した。
当時、代表監督の選考で重視されたのが「国民からの人気」だった。
カタールW杯前、ドイツ国内では参加辞退を求める声が高まっていた。カタールにおける人権問題が取り沙汰されたのである。バイエルンやドルトムントのサポーター団体もボイコットを求めたほどだった。
ドイツ代表の選手たちはグループリーグ初戦の日本戦の前日に激論を交わし、キックオフ前の整列時に「口に手を当てる」ジェスチャーを実行。だが、このアクションがさらなる不評を買う一因になった。
ドイツ代表を応援したくない──そんな空気が国内に広がってしまった。
そこでドイツサッカー連盟は、まずは信頼を回復しなければならないと考えた。ナーゲルスマンは28歳の時にホッフェンハイムで「ブンデスリーガ最年少監督」になり、そこからライプツィヒ、バイエルンと駆け上がった。代表に再び関心を持ってもらうには最適の人物である。
一方、ナーゲルスマン自身もバイエルンで経験した選手との衝突や人間関係の難しさから、マネジメントスタイルを微修正しなければならいことに気がついていた。
過去にナーゲルスマンは安全ピンを首元につけたシャツやディスコの黒服のような服装で試合会場に現れ、「それが自分のアイデンティティ。隠す必要はない」と豪語していた。
ただ、一部の選手が違和感を覚えていたのは確かだった。ナーゲルスマンは所属する代理人事務所「Sports360」から助言を受け、ドイツ代表ではシンプルな服装を心がけるようになった。独自のスタイルを貫きながらも、より人々の共感を意識するようになったのである。
ちなみに今年3月にドイツ代表に電撃復帰したトニ・クロース(マドリー)も「Sports360」の所属。代理人事務所が同じだったことが、34歳のクロース復帰の後押しになった。