ユーロ2016で見えた戦術的な特徴 “偽の9番”対策、新たな戦い方の追求は
“主導的なプレス”が少なかった今大会
ポルトガルの優勝で幕を閉じたユーロ2016。その戦術的な特徴を分析してみる 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】
まず今大会では“主導的なプレス”があまり見られなかったのが特徴的だった。自分たちが相手を追い込んで奪うのではなく、相手がボールを運びたいエリアへのパスやドリブルを断絶するように守る。こうした守り方が多かったのは、トップレベルの選手・チームはプレスの外し方を身に付けており、いたずらにボールを取りにいっても、かわされて危険な状況を作られてしまうからというのが理由として考えられる。
だが、そうなると必然的に守備ラインは下がるし、当然ながらボールを奪える位置も低くなってしまう。せっかくボールを奪取しても、そこからでは攻撃にどうしても時間がかかってしまう。ボールを奪ったチームが攻め切る前に、相手が完全に守りについてしまうシーンがなんと多かったことか。今大会は総得点が108で1試合あたりの得点数は2.12だった。2008年大会の2.48、前回大会の2.45と比べても少ないが、それ以前にチャンスの数自体も多くはない印象があるのはそのためだろう。
“偽の9番”対策によるスペイン、ドイツの苦戦
スペインを筆頭にポゼッション志向のチームの苦戦が目立った 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】
ただ、このスピードを上げるための起点作りが思うようにできないのが問題だった。その理由の1つが“偽の9番”対策がすでに出来上がってしまった点。きっかけは14年ワールドカップ(W杯)・ブラジル大会におけるオランダ代表だろう。当時のルイス・ファンハール監督が準備した3バックはそれまでのやり方を大幅に改良したものだった。“偽の9番”が厄介なのは、誰がマークすればいいか分からない位置でボールを受けようとすることで、守備陣が混乱してしまうからだ。
ファンハールはここをシンプルに整理した。“偽の9番”がボールをもらいにスペースに動いたり、中盤に下がったら、必ずセンターバック(CB)の誰か1人が追いかけてつぶし、同時にほかのCBとウイングバックが中に絞ることで、ほかの選手が走り込むスペースを消した。同大会の準決勝アルゼンチン戦ではこのやり方でリオネル・メッシを試合の流れから消し去り、PK戦まで持ち込んだ(結果はアルゼンチンが勝利)。
こうしたやり方を、今大会で守備ラインを低めにとるチームは取り入れていた。“偽の9番”がフリーでボールを受けられるスペースはほとんどなく、そうなると彼らはもともと背負ってボールを受けるのが得意な選手ではないため、マンマーク気味に狙い撃ちされるとボールロストの可能性も高くなる。スペインやドイツといった国は他のやり方を見いださなければならず、前線でボールを収めることができるアルバロ・モラタ(スペイン)やマリオ・ゴメス(ドイツ)といったFWを起用することで、相手が守備ブロックを作るエリアに起点を作ろうとした。
持ち前のポゼッションからポストワークのできるFWを起点に縦へのギアを入れる。その狙い自体は良かった。だが、スペインはそうした思惑を凌駕(りょうが)するイタリアの組織立った守備と攻撃に撃破され、ドイツはようやく見つけたゴメスというピースが準々決勝のイタリア戦での負傷で使えなくなるという緊急事態に陥り、また別の戦い方を見つけなければならなくなってしまった。