“醜いアヒルの子”ポルトガルの優勝 開催国フランスは変則的な大会方式に泣く

清水英斗

小さくないフォーマットへの違和感

優勝を決めたポルトガルは、全7試合で90分の勝利を収めたのが準決勝のウェールズ戦のみ。変則的な大会方式に最もフィットした 【写真:ロイター/アフロ】

 優勝候補のスペインをイタリアが破り、そのイタリアをドイツが破り、そのドイツをフランスが破り、そのフランスをポルトガルが破った。注目を集めては敗れ、集めては敗れる、百日天下のユーロ(欧州選手権)2016。最終的にはノーマークのポルトガルが天下を取った。

 それにしても、小さくない違和感が残る。準決勝から中3日で決勝を迎えたポルトガルと、中2日のフランス。明らかにフランスは疲れていた。開催国がグループAを1位突破して勝ち上がったのに、日程面で不利を被るのは、いかがなものか。12年のユーロ(ポーランドとウクライナの共催)、14年のワールドカップ・ブラジル大会を思い返せば、グループAの開催国(12年ユーロはA組のポーランド)は先んじて試合を消化するスケジュールになっており、日程面は有利になっていた。それが普通の国際大会だ。

 しかし、今大会は普通ではない。参加国を24に増やしたことで、グループリーグを3位突破するチームが4つあり、決勝トーナメントの組み合わせが変則的だ。フランスはグループAの1位にもかかわらず、遅い日程の山に回され、最終的に休養1日の差に泣いた。

 一方、この変則的な大会方式に最もフィットしたのが、優勝したポルトガルだった。グループリーグは3位突破もOKで、決勝トーナメントは例年より1試合増えた。90分間で勝ち切れない、より守備的でトーナメント向きのチームが利する規定になっている。グループFを3位突破し、全7試合で90分の勝利を収めたのが準決勝のウェールズ戦のみ。そのポルトガルが王者になったのは、変則的な大会の影響が大きい。

 最初から感じていたが、この大会方式には無理がある。早く取りやめてほしい。

序盤からハイプレッシャーをかけたフランス

ポルトガルのシステムはアンカーのウィリアム・カルバーリョ(左)の周囲が空きやすく、フランスは両サイドの選手が中に絞って攻撃の起点となった 【写真:aicfoto/アフロ】

 そんな事情でコンディションに不安が残るフランスだったが、7月10日(現地時間)に行われた決勝は序盤からハイプレッシャーをかけ、積極的に先制ゴールを狙った。その戦略は正しい。ポルトガルは後方からのビルドアップがうまくないので、ハイプレッシャーに弱い。また、フランスとしては体力面の問題から、延長戦に持ち込まれたくない。先に1点を取り、そこから堅守速攻に移ってゲームコントロールをすれば、ポルトガルはなすすべなく敗れたはず。

 そして、ボールを奪ったフランスが攻撃のターゲットに定めたのは、バイタルエリア(ボランチとセンターバックの間)だった。4−4−2の中盤ダイヤモンド型システムを採用するポルトガルは、アンカーのウィリアム・カルバーリョの周囲が空きやすい。もちろん、ポルトガルはそれを放置するわけではなく、トップ下のアドリアン・シウバが下がり、MF4枚をダイヤモンドからフラットに変形しつつ、スペースを埋めるのだが、2トップのロナウドとナニの背後で相手のボランチにボールを持たれると、どうしてもアドリアン・シウバが前へ行かざるを得ない。

 なおかつ、ウィリアム・カルバーリョは、マッチアップするアントワーヌ・グリーズマンに1対1で付いたため、グリーズマンが広く動き回ると、バイタルエリアはすかすかに空く。このタイミングを狙って、フランスは両サイドからムサ・シソコやディミトリー・パイエが中央へ入る。彼らが対面する相手サイドバックのラファエル・ゲレイロと、セドリックは、ポジションを保つ意識が強く、担当スペースから離れる相手を追撃しない。その結果、シソコとパイエがフリーで縦パスを受けやすく、ここが攻撃の起点になった。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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