“醜いアヒルの子”ポルトガルの優勝 開催国フランスは変則的な大会方式に泣く
ポジションを崩さなかったポルトガル
グリーズマン(中央)が惜しいヘディングシュートを何度か放ったように、フランスはサイドからの攻撃が有効だった 【写真:ロイター/アフロ】
最も可能性があったのは、中央ではなく、サイドだろう。前半10分、パイエのクロスに対し、ファーサイドから斜めに走り抜けたグリーズマンがヘディングシュート。これは惜しくもルイ・パトリシオにセーブされた。後半20分には、パイエに代わったキングスリー・コマンがクロス。やはりファーサイドから斜めに走り込んだグリーズマンがヘディングで狙ったが、惜しくもバーの上に外れた。
ポルトガルは、センターバックのペペとジョゼ・フォンテが空中戦や球際に強く、その自信があるからこそ、ゴール前に引いて跳ね返す守備を行う。しかし、両サイドバックのラファエル・ゲレイロとセドリックは小柄で、170センチ程度しかない。後半20分のピンチでは、フォンテがラファエル・ゲレイロに対し、「絞ってこい!」と叱責したように、フォンテやペペの頭を越えるクロスが有効であるのは明白だった。フランスは120分間で44本のクロスを蹴ったが、それが多いとは思わない。もっとしつこく狙っても良かったのではないか。
一方、ポルトガルは攻撃面では何もしていないに等しい。ただ足元でつなぎ、ただロングボールを放り込み、何も外さず、何も連係せず、個人で勝負。相手を崩すための組織的なチャレンジはないが、その代わり、自分たちのポジションも崩れない。ファビオ・カペッロは、試合前にポルトガルの勝利を予想した“はぐれ者”だったが、まさにポルトガルは彼好みのチームだった。
ポルトガルの勝利の可能性を高めたロナウドの交代
負傷したC・ロナウド(7番)がプレーを続けたことで、幾度となく試合は中断。結果として、フランスのハイプレッシャーの勢いを削いだ効果があった 【写真:aicfoto/アフロ】
前半8分にパイエのタックルを食らったロナウドは、その後、25分に交代するまで、何度かにわたって倒れ込み、座り込み、入ったり、戻ったりで、試合をぶつ切りにした。意図的な行動ではないが、結果として、フランスのハイプレッシャーの勢いを削いだ効果はあっただろう。
アクシデントに対するフェルナンド・サントス監督のベンチワークも、完璧に作用した。元々ロナウドのために採用した4−4−2だ。彼が下がれば、システムを維持する必要はない。リカルド・クアレスマをサイドに投入し、4−5−1で中盤の厚みを増やし、バイタルエリアを狙うフランスの攻撃に対応した。
また、このシステム変更で1トップのポジションが生じ、長身FWエデルにとっては、やりやすい舞台が出来上がった。フェルナンド・サントスは、ロナウド交代の時点でクアレスマではなく、長身FWのエデルを1トップに入れ、ナニをサイドへ移すことも考えたそうだが、早期に攻撃へ舵を切るのはやめた。そして、後半34分にレナト・サンチェスに代えて投入したエデルが、延長戦で試合を決めている。
ハイプレッシャーで早期決着を望んだフランスと、エデルを後半まで温存しながら長期戦を望んだポルトガル。時計の針が進めば進むほど、じわじわ、じわじわと、勝利の女神はポルトガルに心変わりを始めていた。
フェルナンド・サントスは、出場機会が少ない中でずっと耐えて練習に励み続けたエデルを、「“醜いアヒルの子”がゴールを決めた。今の彼は美しい白鳥だ」と称賛した。それはエデルのみならず、耐え忍ぶ戦いを続けた今回のポルトガルにも当てはまる言葉だったのかもしれない。