“醜いアヒルの子”ポルトガルの優勝 開催国フランスは変則的な大会方式に泣く

清水英斗

ポジションを崩さなかったポルトガル

グリーズマン(中央)が惜しいヘディングシュートを何度か放ったように、フランスはサイドからの攻撃が有効だった 【写真:ロイター/アフロ】

 一方、バイタルエリアで相手をフリーにしても、ポルトガルの最終ラインは焦って食い付かない。早めにラインを下げ、自陣ペナルティーエリアに入ることもいとわず、裏のスペースを消した。そのため、やや遠めからシュートを狙うことになったフランスだが、GKルイ・パトリシオのセーブに阻まれ、ゴールを割ることができない。90分間で7回のセーブは、1980年大会以来の決勝では最多になるそうだ。

 最も可能性があったのは、中央ではなく、サイドだろう。前半10分、パイエのクロスに対し、ファーサイドから斜めに走り抜けたグリーズマンがヘディングシュート。これは惜しくもルイ・パトリシオにセーブされた。後半20分には、パイエに代わったキングスリー・コマンがクロス。やはりファーサイドから斜めに走り込んだグリーズマンがヘディングで狙ったが、惜しくもバーの上に外れた。

 ポルトガルは、センターバックのペペとジョゼ・フォンテが空中戦や球際に強く、その自信があるからこそ、ゴール前に引いて跳ね返す守備を行う。しかし、両サイドバックのラファエル・ゲレイロとセドリックは小柄で、170センチ程度しかない。後半20分のピンチでは、フォンテがラファエル・ゲレイロに対し、「絞ってこい!」と叱責したように、フォンテやペペの頭を越えるクロスが有効であるのは明白だった。フランスは120分間で44本のクロスを蹴ったが、それが多いとは思わない。もっとしつこく狙っても良かったのではないか。

 一方、ポルトガルは攻撃面では何もしていないに等しい。ただ足元でつなぎ、ただロングボールを放り込み、何も外さず、何も連係せず、個人で勝負。相手を崩すための組織的なチャレンジはないが、その代わり、自分たちのポジションも崩れない。ファビオ・カペッロは、試合前にポルトガルの勝利を予想した“はぐれ者”だったが、まさにポルトガルは彼好みのチームだった。

ポルトガルの勝利の可能性を高めたロナウドの交代

負傷したC・ロナウド(7番)がプレーを続けたことで、幾度となく試合は中断。結果として、フランスのハイプレッシャーの勢いを削いだ効果があった 【写真:aicfoto/アフロ】

 クリスティアーノ・ロナウドに起きた悲痛なアクシデントもあったが、これはむしろ、ポルトガルの勝利の可能性を高めた。

 前半8分にパイエのタックルを食らったロナウドは、その後、25分に交代するまで、何度かにわたって倒れ込み、座り込み、入ったり、戻ったりで、試合をぶつ切りにした。意図的な行動ではないが、結果として、フランスのハイプレッシャーの勢いを削いだ効果はあっただろう。

 アクシデントに対するフェルナンド・サントス監督のベンチワークも、完璧に作用した。元々ロナウドのために採用した4−4−2だ。彼が下がれば、システムを維持する必要はない。リカルド・クアレスマをサイドに投入し、4−5−1で中盤の厚みを増やし、バイタルエリアを狙うフランスの攻撃に対応した。

 また、このシステム変更で1トップのポジションが生じ、長身FWエデルにとっては、やりやすい舞台が出来上がった。フェルナンド・サントスは、ロナウド交代の時点でクアレスマではなく、長身FWのエデルを1トップに入れ、ナニをサイドへ移すことも考えたそうだが、早期に攻撃へ舵を切るのはやめた。そして、後半34分にレナト・サンチェスに代えて投入したエデルが、延長戦で試合を決めている。

 ハイプレッシャーで早期決着を望んだフランスと、エデルを後半まで温存しながら長期戦を望んだポルトガル。時計の針が進めば進むほど、じわじわ、じわじわと、勝利の女神はポルトガルに心変わりを始めていた。

 フェルナンド・サントスは、出場機会が少ない中でずっと耐えて練習に励み続けたエデルを、「“醜いアヒルの子”がゴールを決めた。今の彼は美しい白鳥だ」と称賛した。それはエデルのみならず、耐え忍ぶ戦いを続けた今回のポルトガルにも当てはまる言葉だったのかもしれない。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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