「スポーツの祭典どころではない」 開幕まで1カ月、現地紙が見たリオの難題

サンパウロ新聞

強盗、テロ、銃撃戦……治安の懸念

 リオデジャネイロ市は世界有数の犯罪都市。ブラジルのニュース番組を見ていると、毎日警察と犯罪組織が銃撃戦を繰り返すほど悪化している。6月19日には、ブラジル滞在中だったオーストラリアのパラリンピック選手ら2人が市内で拳銃を突きつけられるという強盗被害に遭った。また同日、大会時の救急病院に指定されている病院が武装集団に襲撃され、患者1人が死亡するという事件も起こっている。

 数日前には日本の民放テレビ局のクルーが強盗に襲われ、7月1日には貨物便で空輸されたドイツのテレビ局2局のスタジオ用機材が、空港からリオ市内へ運ぶ途中にトラックごと強奪された。同日、捜査していた警察がリオ市内で同貨物車が乗り捨てられているのを発見、積荷もそのまま放置されていたので実質的な被害はなかったものの、今後も同じような事件が起こることが懸念されている。

五輪へ向けて新たに開通した新型路面電車と、周囲を警戒する警察 【Getty Images】

 こうして治安状況が悪化しているなかで、6月27日にはリオ州の市民警察官、署長らが給与支払いや労働環境の改善を求めて抗議活動を行い、業務を1日ボイコットする事態となった。これはリオ州政府が職員への給与遅配に陥ったことから抗議活動を行ったもの。州政府は、連邦政府からの支援を取り付けており、間もなく給与支払いが可能だとコメントしているが、警官だけではなく州職員全てがこのような状態で士気を高めることができるのか、甚だ疑問である。

 警備は最重要課題であり、大会期間中は軍隊3万5000人、軍警察、市民警察、民間の警備会社等5万人の合計8万5000人体制で警備にあたる。これだけ大規模な人員が警備すれば、犯罪組織も身動きできず、治安は保たれるだろう。

 だが、大会を狙ったテロが発生する可能性は否定できない。4月には、ブラジルの大手紙が、「ブラジル大統領府情報庁(ABIN)は、『イスラム国』(IS)のメンバーによる『我々の次の標的はブラジルだ』とのツイート内容を確認しており、ブラジルにおけるISの脅威が高まっている」と報道して一気に緊張が高まった。そして、6月16日にはABINが、ISに関連するとみられるポルトガル語のメッセージのやり取りがインターネット上で行われていると発表、警戒を強めていることが明らかになった。

 ブラジルの国境警備は手薄でどこからも容易に侵入できるため、大会が終わるまで気を緩めることはできない。

ジカ熱はリオ周辺で感染拡大中

ジカ熱対策としてブラジル政府は2月、全土で「一斉駆除デー」を開催した。右から3人目は、弾劾裁判の設置が決まり5月に職務停止へ追い込まれたルセフ大統領 【写真:ロイター/アフロ】

 さらにもう一つ、厄介なのは、日本にもすでに感染者が発見されているジカウイルス感染症(ジカ熱)やデング熱だ。いずれも蚊が媒介する。特にジカ熱は、ジカウイルスが小頭症を引き起こす原因であることから、妊婦への感染が心配され、女性選手だけではなく男性選手も出場を取りやめるなどの事態も起こっている。

 6月20日には、ブラジル厚生省が、過去5週間に記録された小頭症が疑われる新生児の報告数において、昨年の報告開始以来最多を記録していた北東部を、リオ州やサンパウロ州が位置する南東部が上回ったことを明らかにした。厚生省が発表したジカウイルス感染者は南東部で5万4803件、北東部で5万1065件。南東部でのジカ熱のピークは昨年11月から今年2月の夏場となっている。五輪、パラリンピック期間中は冬場とはいえ、日中の気温が25℃を超えることも珍しくないリオ市では蚊がいなくなることはなく、危険は付きまとう。

 問題ばかりが山積みだが、それでも五輪は開かれる。

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著者プロフィール

1946年に創刊したブラジル・サンパウロの邦字新聞(週5回発行)。日刊の邦字新聞としては海外最大規模を誇る。日系社会の言論界をリードし、さらには文化事業で日本との架け橋を担う。

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