これぞ“手倉森ジャパン”のゲーム展開 2年半の積み重ねを示した松本の夜

川端暁彦

再編成のときを迎える“手倉森ジャパン”

リオ五輪前に行われる国内ラストマッチでU−23南アフリカに快勝したU−23日本代表 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 確かに“手倉森ジャパン”のゲームだった。6月29日に長野県松本市の松本平広域公園総合球技場で行われたU−23日本代表とU−23南アフリカ代表のキリンチャレンジカップは、リオデジャネイロ五輪世代がチームとしての色を出しながら願いを込める場として機能し、4−1で日本が快勝を収めた。

 リオ五輪前に行われる国内ラストマッチと位置づけられたこの試合は、メンバー発表前の最終選考試合でもあった。同時に2014年1月から2年半に渡って活動してきた「1993年生まれ以降の選手で構成されたチーム」としての最終戦でもあった。このゲームを最後に、チームはオーバーエイジの3選手を加える形で再編成のときを迎えるからだ。

 そんな大切な一戦を前にして手倉森誠監督は「彼らのこれまでの成長とこれからの可能性というのを存分に示してもらいたい」と語っていたのだが、少なくとも「これまで」を色濃く感じさせるゲームになったのは間違いない。

勝負を分けた15分間のフルスロットル

立ち上がりは南アフリカに主導権を握られたものの、日本は失点以降の15分で圧巻の攻勢を見せた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 立ち上がりの主導権はリオ五輪出場国でもある南アフリカの掌中にあった。前線からの守備がうまく機能しなかった日本に対し、悠然とボールを動かして主導権を握る。FW浅野拓磨が惜しいチャンスを迎えるような場面もあったが、なかなか流れをつかめない。特に15分すぎからは一方的にボールを支配される展開となった。前半15分から30分にかけて、南アフリカのボール支配率は73.4%というかなり極端な数字を記録している。こうした支配される展開でも粘り強く戦えるのがこのチームの強さだが、30分にDF亀川諒史のイージーミスからPKを与えてしまい、「ハプニング的な失点」(DF室屋成)によって窮地に陥った。

 だが、この程度で心が折れることはない。否、折れなくなったと言うべきか。MF大島僚太は「後ろから植田(直通)がすごく声を出してくれました。失点したあとに『後ろは任せてくれればいいから、どんどん前から取りにいこう』と言ってくれた」と振り返ったが、失点後のチームに漂う雰囲気は、劣勢でも前を向けるチームメンタリティーが養われていることをよく象徴していたように思う。先制して心理的に緩んだ相手に対し、日本の若き選手たちは静かにアクセルを踏み込んでいった。

 失点以降の15分は圧巻の攻勢となった。マンツーマンで対応する意識の強い相手に対して、オフ・ザ・ボールの動き出しで釣り出し、空いたスペースを突いていく。連動性と連続性が伴う攻めは、37分にまず同点ゴールを生み出す。矢島のスルーパスから抜け出したのはボランチの大島。ダイナミックな飛び出しでマーカーを置き去りにするプレーは、大島の2年半での確かな成長を感じさせるもので、そこから丁寧に出した優しいラストパスは彼らしさの象徴だった。合わせたのは、チーム内得点王ながら負傷で五輪出場が危ぶまれていた中島翔哉。「大島くんは優しい人だから来ると思っていた」と言うボールを押し込んで、復活を印象づけた。

 続く44分にも矢島が魅せる。右サイドのスペースに室屋を走らせるパスから、ダイレクトの折り返しをペナルティーエリア内で受けるワンツーリターン。正確に右足でミートしたシュートがゴールネットを揺らし、日本が瞬く間に逆転に成功する。さらにアディショナルタイムには、相手のビルドアップでのスキを読み切っていた浅野がボールを奪い取って、中島の2点目をアシスト。あっという間に試合の様相はひっくり返った。試合を通じて日本がボール支配率で上回った時間帯は、この前半ラスト15分のみである。そしてその15分間のフルスロットルで勝負はついた。

 そして後半の頭(3分)には植田のロングフィードから抜け出した浅野が決めて4点目。A代表のキリンカップではチャンスで遠慮してパスを選択したストライカーが、今度は迷わずシュートを選択し、4点目のゴールを奪い取った。ごく短い期間ながら、確かな成長を裏付ける一コマ。この大量リードを受けて残る時間はテストに徹した日本が4−1のまま圧勝。国内最後の試合を白星で飾った。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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