日本代表、スコットランド戦で見えた課題 「戦術の精度」を高めて第2戦へ

斉藤健仁

ボール出しに人数がかかり、攻撃の選択肢が減る

正確なキックで存在感を示したSO田村 【斉藤健仁】

 それではなぜ、ホームの日本は負けたのか。

 日本のディシプリン(規律)のなさと言ってしまえば簡単だが、まず、ブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)では終始、劣勢だった。戦略は落とし込めても、サンウルブズ(日本代表の多くが参加するスーパーラグビーチーム)と同じ戦術をチーム全体に浸透させることができなかった。

 FWからのSHを起点にしたアタック後は、ボールをキープするため接点に人数をかけざるを得なくなってしまい、そうすると両サイドに立つ選手の数が減ってしまうという悪循環に陥る。ボールはキープしていても、最後は自らの反則かキックの選択になってしまい、なかなか有効な攻撃ができなかった。逆に言えば、戦術の精度が低かったから反則が増えたとも言えよう。

 また試合終盤は、何度もゴール前でラインアウトのチャンスがあったが、「(ラインアウトは)ワールドクラス」(ハメットHC代行)という相手に対して、タッチに蹴るスローな展開ではなく、もっとクイックリスタートで攻めてほしかった。スコットランドの選手も疲れていたが、日本もカナダから戻ってきたため時差の影響もあり、試合の週に合流した選手も多く、試合終盤にフィットネスで上回ることができなかった。マネジメントサイドの問題でもある。

一時退場の時間帯にトライを奪われる

審判と判定について確認する堀江主将 【斉藤健仁】

 実は、反則数は日本の16に対して、スコットランドは14と大きな差はなかった。ただ試合の序盤に審判の笛にアジャストできなかったことが悔やまれる。倒れ込み(オーバー・ザ・トップ)を何度か取られて、警戒していた正確無比なキッカーであるレイドローにきっちりとPGを決められた。またスクラムでも相手がバインド(お互いにつかみ合った状態)で体重を乗せてくるヨーロッパ式の組み方に対して、後半は対応できたものの、試合序盤は対応できず、PGを与えてしまった。

 また前半34分、FLツイへのシンビンも、一度、モールで反則しコーション(注意)がチームに対して出されたにもかかわらず、再びモールでオフサイドの反則をした結果だった。そして、続く37分に負傷したFB松島幸太朗に代わって入った松田力也が故意のノックオンにより、シンビン&ペナルティートライを献上。さらに後半開始早々、10対16で迎えたキックオフで、スコットランドは自ら蹴ったボールをキープし、攻め続けて、最後はFW勝負からPRウィレム・ネルにボールをインゴールにねじ込まれた。

 結局、終わってみれば、スコットランドに2トライを許した時間は、数的不利な状況の中だけだった。この試合の笛を吹いた審判、ベン・オキーフ(ニュージーランド協会)はサンウルブズの開幕戦を担当していただけに、もう少し早く対応したかったところだった(オキーフ氏は2試合目も主審の予定だ)。

「真価が問われる」第2戦は天覧試合

エネルギッシュに動いてチャンスをつくったFL金正奎 【斉藤健仁】

 後半残り15分からは、テリトリーとポゼッションで上回ることができるようになり、何度もゴール前でチャンスを得た。もうひとつトライを取ることができれば6点差となり、ホームのファンの後押しも増し、もしかしたら……という状況になったかもしれない。だが、それをスコットランドが許さなかった。12年前のアウェーで行われたスコットランド戦(8対100)にも出場し97キャップ目となった大野は「(必要なのは)やっぱり我慢です」とキッパリ言い、金正奎は「相手の集中力が上回った」と称えた。ホームユニオンの意地とプライドの前にゴールラインは遠かった。

 ただ日本のディフェンスは安定し、茂野はカナダ戦に続いて高いパフォーマンスを維持し、金正奎は177センチと小柄ながら世界で戦えるポテンシャルを十分に見せ、松田も大学生とは思えない安定したプレーを披露。そして低く8人で組むスクラムも後半は相手のボールをターンオーバーするなどポジティブな面も多かったことも事実。

 幸いにして、もう一度、戦う舞台が残されている。6月25日(土)、東京・味の素スタジアムで行うスコットランドとの第2戦は、天皇・皇后両陛下が初めてテストマッチ観戦に訪れる「天覧試合」になることも決まった。

 スコットランドは日本の気候に慣れて、より高いパフォーマンスを見せて連勝を狙ってくることは明白だ。一方の日本にもFL/No.8堀江恭佑が再合流し、CTBマレ・サウも新たに加わり、層の厚みが一段と増した。第一テストマッチの課題を修正し、結束を高めてスコットランドからの白星を奪うことができるか。まさしく、新生日本代表の「真価が問われる」(ハメットHC代行)試合となろう。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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