ボスニアに”デュエル”で圧倒された日本 欧州勢との2連戦で見えた現実

宇都宮徹壱

ジュリッチの2ゴールでボスニアが勝ち越し

2失点目を喫した日本は小林祐希などを相次いでピッチに送り込んだが、同点ゴールは奪えず 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 ボスニアは序盤から積極的に日本のゴールに迫ってきた。前半2分、左サイドからのハリス・メジュニャニンからの精度のあるFKにジュリッチが頭で反応(西川の素晴らしい反応で事なきを得た)。10分にはスルーパスを受けたイゼト・ハイロビッチが、俊足を生かしてドリブルで持ち込みシュートを放つ(こちらはサイドネット)。ボスニアの強さは高さだけではなく、テクニックやスピードもあるから厄介だ。対する日本も、12分に宇佐美が、そして15分に清武が、いずれも惜しいシュートを記録したが、GKイブラヒム・シェヒッチの好守に阻まれてネットを揺らすには至らない。

 それでも先制したのは日本。前半28分、左サイドでボールを持った宇佐美が、徐々に加速しながらペナルティーエリアに侵入し、折り返したところを清武がニアからワンタッチでゴールを揺らす。だが、日本のリードはわずか1分しか続かなかった。ボスニアは直後に、マテオ・ブランチッチのロングパスを受けたアルミン・ホジッチがヘディングシュート。いったんは西川が防ぐも、こぼれ球をジュリッチに詰められてしまう。ボスニアは前半アディショナルタイムにも、メジュニャニンが左足で強烈なブレースキックを放つも、これはクロスバーに直撃。ほっと安堵(あんど)したところで、前半終了のホイッスルが鳴った。

 ハーフタイム、日本は柏木に代えて遠藤航を投入。この交代についてハリルホジッチ監督は「デュエルのところでわれわれのパワーを出そうとした」と説明している、守備時の1対1の対応で、柏木では難があるという判断だったのだろう。確かに遠藤の起用により、後半の日本は中盤で落ち着きを取り戻すことができた。そして攻撃に転じると、岡崎や浅野を使って相手の背後を突くチャレンジを繰り返した。しかし、その努力が実らないまま後半21分、再び失点を許してしまう。メジュニャニンのFKを起点に、途中出場したばかりのミロスラフ・ステバノビッチが前線にスルーパスを送り、ゴール前に走りこんだジュリッチが吉田の股間を抜く逆転ゴールを決めた。

 その後の日本のベンチワークは、疲労困ぱいした選手をケアしつつ、何とか同点に追いつこうとする焦燥感が目立つようになる。後半25分、長友を下げて槙野智章を左サイドバックで起用。29分には宇佐美を下げて小林祐希が代表デビューを果たした。さらに、金崎夢生と小林悠を相次いでピッチに送り込み(アウトは岡崎と長谷部)、2トップにシステム変更。試合終了間際には、それまで裏に抜けるチャレンジを繰り返していた浅野が、ついにフリーで抜け出す場面を迎えた。しかし、ここで浅野は自らシュートを打たず、中央へのパスを選択。ボールは相手DFにカットされ、会場から大きなため息が漏れた。そしてタイムアップ。2−1で勝利したボスニアが見事にキリンカップを制し、日本は昨年8月2日の東アジアカップ北朝鮮戦(1−2)以来の敗戦となった。

笑顔と涙で閉幕したキリンカップ

浅野は「チャンスがあれば絶対に決めるという気持ちはあったのに、そこに結びつかず悔しい」と涙を流した 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 キリンカップ優勝が決まった瞬間、ボスニアのベンチはW杯かユーロの予選を突破したかのような喜びようであった。破顔一笑のバズダレビッチ監督を見ていると、確かに悔しくはあるけれど、何やら大会の価値を高めてくれるような気がして、少しだけほっこりした。当初は「モチベーションに難があるのでは?」と思われていたボスニアであったが、実のところ彼らが最もこのタイトルを希求していたのかもしれない。本当に悔しいけれど、優勝したボスニアには心からおめでとうと申し上げたい。

 そんな喜びにわくボスニアの選手や関係者を尻目に、この日90分間プレーした浅野は、自らの消極性を悔いるかのように涙を流していた。ミックスゾーンでも「チャンスがあれば絶対に決めるという気持ちはあったのに、そこに結びつかなかったからこそ悔しい。余裕があるのかないのか、自分では分かりません」と、問題のシーンを口惜しそうに振り返ったという。先のブルガリア戦では、自らPKを志願して代表初ゴールを決めていただけに、そのコントラストは鮮明だ。おそらく彼にとって、21歳で経験したキリンカップは、生涯忘れえぬ思い出となることだろう。いずれ日本を代表するFWとなり得る逸材なのだから、今回の経験を糧にさらなる飛躍を期待したいところだ。

 かくして、笑顔あり、涙ありで閉幕したキリンカップ。5年ぶりに復活した今大会は、さまざまな意味で成功だったと言えるのではないか。ハリルホジッチ監督は、この日の結果については「本当にがっかりしている」と悔しさをにじませる一方で、大会の収穫については「2試合で8点取れたこと、そして2チームとも欧州の国だったこと」と語っている。それらに加えて「日本の現在地が明らかになった」ことを挙げてきたい。より具体的に言えば「今の日本が欧州の中堅国と対戦する場合、2失点は覚悟しなければならない」ということだ。

 とりわけ深刻なのが、フィジカルとデュエルで日本はかなり劣っていた、という事実である。ハリルホジッチ監督いわく「常にフィジカル的に100%でないと、われわれのプレーはできない。(そうしないと)われわれはパワーでは対抗できないし、個人プレーでも打開できないだろう」。これまで何度も耳にしてきた言葉だが、ブルガリア戦での大勝に酔いしれていたわれわれも、これで現実を直視せざるを得なくなった。課題は山積み、与えられた時間は多くはない。それでも、9月1日から始まるW杯アジア最終予選を前に、自分たちの立ち位置を知ることができ、選手もファンも危機感を共有できたことの意義は大きかったと確信する。最後まで「真剣勝負」で挑んでくれたボスニア・ヘルツェゴビナ代表には、あらためて感謝したい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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