錦織圭を戸惑わせた2つの変化
全仏8強逃すも“真の照準”は数年先に

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今季3度目となったガスケとの対戦

好調を維持していた錦織圭(写真)だったが、全仏オープンは4回戦敗退となった
好調を維持していた錦織圭(写真)だったが、全仏オープンは4回戦敗退となった【写真:ロイター/アフロ】

「生き物」とまで形容される赤土のコートの怖さとは、天候などの外的要因により、その表情や好みの選手を、激しく変えることにあるだろう。


 わずか2〜3週間前、過去6連敗中だったリシャール・ガスケ(フランス)を立て続けに2度破った時、錦織圭(日清食品)は、その赤土を味方につけていた。ガスケのバックハンドは片手打ちであるがゆえに、高い位置で打つ時は力が入りにくい。そこで、スピンを掛けた高く弾むボールで、ガスケのバックサイドを攻める。そうして返球が浅くなったところを仕留めるのが、マドリード・マスターズやローマ・マスターズで見せた必勝パターン。


「少なからず、苦手意識は無くなっている。すべきことは分かっています」


 全仏オープンの4回戦で、またも対戦することになったガスケについてそう言うと、錦織は続けた。


「それを、このコートでできるか……というところだと思います」


 錦織が言う「このコート」とは、他よりもいくぶん「柔らかい」と言われる、ローランギャロスの赤土の特性を指すだろう。そしてもう1つは、「たまにクレイジーになる」と警戒心を深める、身贔屓(みびいき)で残酷なパリの観客。特に今回の対戦では、ガスケに向けられる声援が一層大きくなるだろうことは、想像がつく。なぜならガスケはフランスの、最後の希望だったからだ。


 9歳にして、「未来のチャンピオン」の見出しとともにテニス誌の表紙を飾ったガスケは、フランスでは多くの人々が、早くから知る存在だった。繊細で柔らかなタッチと、ポイントを組み立てる独特の感性――天与の才を授かった少年に、世間は“プチ・モーツァルト”の愛称を与えた。


 しかしあまりの注視と重圧ゆえか、小さなモーツァルトはそれから20年経った今日まで、まだ真の「チャンピオン」と呼べるだけの実績は残していない。特に、最もフランスのファンが期待を寄せる全仏オープンでは、過去4度も4回戦に至りながら、ベスト8への壁に阻まれ続けてきた。

内田暁

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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