“勝負強さ”はポジティブ思考が生み出す ゲーム感覚でできるメンタル強化法
「セルフトーク」で感情をコントロール
車いすテニス界をけん引する国枝慎吾も「セルフトーク」でメンタル強化を図っている 【写真:田村翔/アフロスポーツ】
中学生でうまく習慣化すれば、1年もあれば思考は変わると思います。先ほども言いましたが、「メンタルトレーニング=習慣化」です。若ければ若いほど、素直なので思考は改善されやすい。大きくなればなるほど自分のやり方を確立し始めているので、そこからネガティブ思考を改善するのは難しいんです。だからすぐにでも始めてほしいですね。
――1人でやれるトレーニングはありますか?
「セルフトーク」というトレーニングがあります。独り言をすべてポジティブにする方法です。例えば、ため息が出そうになったら、語尾を上げて元気よく「よーし、まだまだ次々、OK、OK」「絶好調!」「まだまだ、これから!」などとポジティブな言葉をつぶやく。ポイントは、楽しく、元気よく行うこと。自分に言い聞かせるように話したり、言葉を口にしたりすることで自己暗示をかける方法でもあるのです。
パラリンピック車いすテニスの金メダリストである国枝慎吾選手は、鏡の前で「俺は最強だ!」と毎日言い続けたといいます。彼は海外の専門家から指導を受けていましたが、これは正しいセルフトークで、彼のメンタルをさらに強めた1つの習慣でしょう。
――子供が行う場合はどういった言葉がよいでしょうか?
日常生活では、「おはよう」「こんにちは!」「今日もよろしくお願いします!」などのあいさつ、「ありがとうございました!」といった感謝の気持ちを元気よく発言するようにする。練習や試合の苦しい時には、「いける!」「よっしゃー!」という前向きな言葉をあえて口にするようにします。不安に思ったときは「自分はうまい! 強い! 世界一だ! 自分に勝てれば勝てる!」などと口にし、自信を持てるようにトレーニングするといいでしょう。
ポジティブな言葉が習慣化すれば、ネガティブな気持ちが切り替わるなど、感情をコントロールしやすくなり、その上、やる気も高めてくれます。自分の気持ちが楽しくなるのと同時に、チームメイトや家族などの気持ちも楽しくなるので、互いに気分が良くなることもこのトレーニングの効用です。
習慣化すればメンタルは必ず鍛えられる
試合直前の声がけは選手に大きな影響を及ぼす。高妻教授は好例として、柔道の井上康生監督(写真)を挙げる 【写真は共同】
まずそこがポイントであり、子供をポジティブ思考にする近道です。親御さんが普段からポジティブに元気よく周囲に接するようになれば、「ペットトーク」に挑戦してみてもいいと思います。
――ペットトークとは?
試合直前に選手にかける言葉です。柔道男子の井上康生監督は、ペットトークがうまい。例えば、試合直前の選手に「おい、これからお前の時代が来る。今日思い切り暴れまわって来い!」というように、選手をやる気にさせるようなワクワクする一言を投げかけるんです。すると、選手たちの気持ちが高揚して、良い精神状態で畳の上に上がることができます。親御さんも子供が試合に行く前に、こうした言葉の投げかけができればいいですね。
――試合直前の緊張する場面でかける一言は重要ですね。
海外ではメンタルトレーニングを重視し、技を磨き、体を鍛えるように心も強化しています。メンタルトレーニングに関しては、日本は海外より30年遅れていると言われています。コーチが「平常心を持て」「集中しろ」「気合いだ!」などと言い放つだけの状況がまだ続いている状態なんです。そんなことを試合直前に言われても、選手はできるわけがありません。コーチや親がトレーニング方法を教えて心を鍛えることを習慣化すれば、思考は変わり、メンタルは必ず鍛えられます。
メンタルトレーニングは“勝利”だけを目的としていません。スポーツを通じた精神的な成長の手助けになる。子供の頃にポジティブ思考を習慣化させれば、スポーツだけでなく、その先の未来を生き抜く力にもなるはずです。
プロフィール
【スポーツナビ】
1955年宮崎県生まれ。福岡大学体育学部体育学科卒。中京大学大学院修士課程体育学科研究科修了後、フロリダ州立大学に留学し、スポーツ心理学を学ぶ。近畿大学教養部を経て、現在は東海大学体育学部教授。国際メンタルトレーニング学会理事(日本代表委員)。日本オリンピック委員会メンタルマネジメント研究班員などを務める。スポーツメンタルトレーニング上級指導士。『基礎から学ぶ!メンタルトレーニング』など著書多数。