メンタルの強さは自主性の育み方で決まる 子供からできるトレーニング法とは?
本番で力を発揮する強いメンタルは、子供でも鍛えることができる。スポーツ心理学の第一人者・高妻教授にその方法を聞いた 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】
プレッシャーに押し潰されず、本番で実力を発揮できるようになるには、メンタルをどのように鍛えればいいのか。数々のトップアスリートのメンタルやスポーツ心理学を研究し、メンタルトレーニングを指導している東海大の高妻容一教授は、子供の頃から自主性を育むことが重要だという。具体的にどうしたらいいのか。高妻教授に聞いた。
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性格ではなく、考え方を変える
インターネットに掲載されている情報には、“自称メンタルトレーナー”というような人が、自身の経験をもとにトレーニング方法を掲載しているケースが多く見受けられます。
われわれは「スポーツメンタルトレーニング指導士」という資格を持ち、心理的なスキルをトレーニングする方法をきちんと勉強しています。「心理的スキルトレーニング」とは、スポーツ心理学の研究で実証されたもので、取得するためには米国では博士号、日本では最低でも修士号が必要です。大学ではスポーツ科学全般、大学院ではより深くスポーツ科学を勉強した上で、科学的な研究や実験で実証された裏付けがある心理的スキルトレーニング(=メンタルトレーニング)を学びます。
最初に言っておきますが、メンタルトレーニングは魔法でありません。1回トレーニングしたからといって、劇的にメンタルが強くなったり、緊張せずに本番に臨めたりするということはない。技術、体力を向上させるトレーニングと同じように、毎日継続してコツコツとトレーニングすることで心も強くなります。
――メンタルの強さや弱さは、性格が関係すると思いますが、トレーニングで強くなりますか。
もちろん性格も関連します。しかし、性格はなかなか変えられませんし、実は変えなくてもいいんです。ネガティブな思考でも、考え方を変えるトレーニングを積み重ねることでメンタルは強くなります。
さらに言えば、メンタルトレーニングとは、単に試合に勝つことだけが目的ではなく、目標を達成するための手段として効果的です。夢や目標に向かって、具体的な目標設定の方法を知り、実行していくことでメンタルは強化される。トレーニング自体が、目標達成の過程での練習や困難、挫折を乗り越えるために必要な力になります。
子供に教えすぎず、自分で考えさせる
福原愛(写真)をはじめ、熱心な両親の指導を受けて世界へと羽ばたいたトップアスリートも多い 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
あります。プロゴルファーの石川遼選手や、卓球の福原愛選手、柔道男子の井上康生監督といった世界の舞台で戦えるトップアスリートは、幼い頃から親御さんが非常に熱心なんですよ。幼い頃の家庭環境の教育は、アスリートの人間形成やメンタルに大きく影響します。ただ、その熱心さの方向性を間違えると、子供の成長を妨げる恐れがあります。
――方向性の違いとは?
日本人の親は特に、子供に細かく教えようとします。教えてやらせたがるから、親のためにイヤイヤやっているという子供は意外と多い。小学生の時は伸びても、中学生以上になると自主性がない子は伸びなくなります。一方、夢や目標に向かって自ら動くような自主性のある子供は伸びていきます。つまり、親御さんが子供の自主性をいかに育むかで、メンタルの強さや弱さが決まります。
――自主性を育むためのポイントとは?
とにかく何でも教えすぎないこと。自分で考えさせるように促し、子供の内側から湧き上がるやる気を高めることが大切です。
モチベーションを上げる方法として、「外発的なやる気を高める」手段と「内発的なやる気を高める」手段があります。熱心になりすぎる親御さんは、前者の手段を使いがちです。
例えば、子供に怒りながら尻をたたき、あるいは「ご褒美を与えるから」と伝えて無理にやらせようとする。子供が失敗すれば、一方的に罰を与えたりもします。これでは自主性が育まれるどころではなく、スポーツそのものが嫌いになってしまいます。どこかで壁に打ち当たる選手は多く、やらされてきた練習では自分で壁を乗り越えられません。
一方、後者の「内発的なやる気を高める」手段とは、親が子供と一緒に目標設定を考えて日々やることを明確にしたり、努力したことを評価したりします。すると、スポーツが好き、楽しい、面白い、もっと良い成績を取りたいといった、やる気が心の底から湧いてくる。このやる気が大きな推進力になります。親はそこで子供に目標設定をさせればいいのです。