メンタルの強さは自主性の育み方で決まる 子供からできるトレーニング法とは?
目標設定トレーニングで自主性を育む
小学生の高学年からがベストですが、低学年でも親が子供と一緒にやればいいと思います。
具体的には、まず「人生における夢」といった長期的な目標設定を行います。夢のような目標、最低限度の目標、50年後の目標、30年後、10年後、5年、4年、3年、2年、1年、半年、今月、今週、今日、今の目標というように、逆算して細かく目標を書く。それによってどういう人生が送りたいというのが見えてきます。
――子供に50年後などと言ってもイメージできるのでしょうか?
親子で、あるいは家族全員で目標を紙に書くことをお勧めします(図1)。「父さんは50年後、定年退職をしてこんなふうになっていたいけど、お前は20年後にどうなっていたい?」というように、子供に1つ1つ質問していくといいでしょう。分からなければ、分からないでいいし、目標設定通りに進まなくていい。この目標設定は毎月1回、定期的に繰り返してください。1年も経てば子供も目標ややりたいことが見えてきます。時間はかかりますが、根気強くやり続けることが大事です。
(図1)目標設定用紙を使った作業は、定期的に行うことが重要になる 【スポーツナビ】
子供が書いたことを「これでいいのか? 無理だよ。こうしなさい」などと否定し、親の意見を子供に押し付けてはいけません。
子供が「プロ野球の選手になりたい」と書いたとしましょう。そこで親は「プロ野球選手になるには、こういうプロセスを踏んで……」と全部教えるのはダメ。自主性を育むためのトレーニングですから、子供にやらせることが目的です。親はポジティブに接して、子供がワクワクしながら自らの希望を書くように促しましょう。
例えば「おお、そうか。プロ野球の選手になりたいのか。いいね! じゃあどうしたらなれるかな?」と言って、答えが分からなければ一緒にインターネットで調べてみる。「あれ? このままでいいのかな? プロ野球選手になるには何かできるのでは?」「それをやればもっと選手に近づけるね。それだけでいいのかな?」などとコミュニケーションを図りながらヒントを与え、「どっちがいいかな?」と最終決定を子供に委ねます。自分で選んだ子供には、多少なりとも責任感が生まれるのです。
「スポーツ人生物語」で具体的にイメージさせる
そうですね。目標設定をしてさらに子供に自分の将来をイメージさせるためには、「スポーツ人生物語」ゲームもおもしろいと思います。例えば、次のように子供に質問するんです。
父「プロ野球選手の君は今、自分の引退記念パーティーにいます。司会者にどんなふうに自分を紹介してほしいですか?」
子供「うーんと……。小学3年生で野球を始めました。リトルリーグでは4番でセンター、中学校では……。高校では……。ドラフト会議で巨人に選ばれて、入団1年目で新人王を、その後はベストナイン、MVPを獲得。7年後にはメジャーリーグに行って、シアトルマリナーズではイチロー監督の下で活躍。その後帰国して、巨人の監督を務めて引退することになりました」
こんなふうに前向きな目標設定をします。もちろん、紙に書いてもOK。ストーリーのように自分の将来をイメージできれば、目標に向けて1週間の過ごし方や、やるべきことが見えてきて、集中しやすくなります。また、うまく時間を使えるようになれば、目標に向かって努力し続けられるような力が鍛えられます。
「スポーツ人生物語」で引退までのサクセスストーリーをイメージさせることも、自主性を育む効果的な方法だ 【写真:ロイター/アフロ】
熱心な親や短気な親、心配性な親ほど、子供のやることに細かく口を挟み、「こうした方がいい」と答えを教えてしまいがちです。そこはぐっと我慢し、ヒントを与えるなどして子供に考えさせ、自主性を育むことが大事。自主性のある子供は、目の前に壁が立ちはだかっても乗り越えるための手段を考えようとします。これはアスリートが成長するために必要な力です。
(後編は5月31日に掲載予定です)
プロフィール
【スポーツナビ】
1955年宮崎県生まれ。福岡大学体育学部体育学科卒。中京大学大学院修士課程体育学科研究科修了後、フロリダ州立大学に留学し、スポーツ心理学を学ぶ。近畿大学教養部を経て、現在は東海大学体育学部教授。国際メンタルトレーニング学会理事(日本代表委員)。日本オリンピック委員会メンタルマネジメント研究班員などを務める。スポーツメンタルトレーニング上級指導士。『基礎から学ぶ!メンタルトレーニング』など著書多数。