チームの変化に振り回された南野拓実 戦い続けてつかんだ自信、人としての成長

中野吉之伴

序盤は南野が好調、しかしチームの調子が上がらず

ザルツブルクで3年連続2冠達成に貢献した南野(左)。今季はさまざまな紆余曲折があった 【Getty Images】

 プロでも、高校生でも、小学生でも、選手は誰でも試合に出てサッカーがしたい。試合に出たいから必死に練習をするし、いろいろなものを我慢する。それなのにスタメンに自分の名前がなかったら、そりゃ腹が立って、ふてくされたくなるのも自然の感情だろう。周りの人は慰めたり、励ましてくれる。「いつかチャンスが来るから、その時までがんばれ」と。でもどうすればチャンスが来るかは誰も教えてはくれないのだ。暗闇に迷い込んだときどうやってそこから抜け出してくるのか。それこそが、その人の真価が問われるところなのかもしれない。

 レッドブル・ザルツブルクでプレーする南野拓実にとって、今季は紆余(うよ)曲折さまざまなことがあったシーズンとなった。前半戦はレギュラーとしてゴールを連発し、得点ランキングでも上位に名を連ねた。欧州で大事だといわれたその結果を出してきた。だがそんな南野の好調ぶりと反比例するように、チームは序盤から取りこぼしの連続で、なかなか調子に乗れない時期が続いてしまう。

 嫌な予感はシーズン前からあった。昨季チームを2冠に導いたアディ・ヒュッター監督が、チーム作りに関する見解の不一致を理由にクラブを去ってしまったのだ。当初は「監督が代わってもザルツブルクサッカーは変わらない」と首脳陣は息巻いていたが、そうそう自分たちのイメージ通りの仕事をしてくれる優秀な人材がいるわけではない。結果は度重なる監督交代という自滅的なシナリオ。ザルツブルクには、自分たちのサッカーと向き合う余裕がなくなっていた。まずは勝たなければならない。優勝を逃して、来季欧州の舞台に立つチャンスを逃すことはクラブにとって致命的なことだから。

チームのサッカーが変化し、出番を失う

 昨シーズンまでのザルツブルクにはワクワク感があったものだ。極端なまでに狭いエリアで強引なまでのショートパスコンビネーションを貫徹しようとするスタイルには爽快さがあったし、選手からはそんな挑戦的なサッカーができることへの喜びが感じられた。だが気が付くとFWホナタン・ソリアーノとギニア代表MFナビ・ケイタという、このリーグにおいては規格外の才能を持つ二人に依存するサッカーをするようになってしまった。攻守を円滑につなぎ、コンビネーションでリズムを作っていく南野のようなタイプよりも、まず対人に強く、一発の突破力がある選手が使われるようになり、現実的な戦いへとシフトチェンジされた。

 最終的に結果というものが成功のすべてを表すのならば、3年連続となるリーグとカップ戦のダブルを達成したザルツブルクも成功に入るのだろう。しかし、バイエルンのジョゼップ・グアルディオラ監督の「タイトルは数字でしかない」という言葉にも表れているように、どのようなサッカーを目指し、そして実践していたのかも、忘れてはならない大事な視点ではないだろうか。

 得点王のソリアーノとMVPのケイタ。この二人の力もあって、優勝は果たした。だが、二人がとても窮屈なプレーを余儀なくされていた点も見逃せない。負けないサッカーをするために理想のサッカーを封印する。言葉にすればそういうことなのかもしれない。だが、ソリアーノとケイタの才能を生かし、伸び伸びとプレーさせることができれば、当然チームパフォーマンスレベルも上がるし、より高いレベルのサッカーを目指すことができるのだ。そしてその役割こそが、南野が担うべきはずのものだった。

出番が減少した時期も懸命にプレー

チームのサッカーが変化し、出番を失う。それでも、与えられた時間で献身的なプレーを見せた 【Getty Images】

 スタメンを外されてもチームが勝っていれば文句も言えない。やるべきサッカーが変わったことで、南野自身が調子を落としたというのもあるだろう。自分が出ればきっともっといいサッカーができるという思いだけを抱きながら、耐えしのいでいくしかない。だが、吹っ切るまでにはいろいろと思い悩んだことだろう。何が悪いのかとさまざまな試行錯誤をしたことだろう。試合に出られない時期はつらい。でもそこから逃げ出すわけにはいかなかった。

 現地時間4月20日のオーストリアカップ準決勝オーストリア・ウィーン戦(5−2)では出場時間は終了間際の5分間にとどまった。チームがどんどん点を重ねてくのをウォーミングアップをしながら見守った。悔しさはあったはずだ。でもそれを表に見せたりはしなかった。ネガティブな思いはすべてのみ込み、チームの得点をほかの控え選手、スタッフと一緒に肩を組んで喜んだ。そして5分間しか出場時間がなくても、守備に攻撃にと走った。一度のチャンスのために。この日は来なくてもいつか来ると信じて。

 試合後、チーム内で今の立ち位置について聞いてみたら、「まあ、がっつりスタメンをキープしているわけではないですけれど、チームのためにやって、貢献できている自負はあります。それを続けていければいいと思います」と力強く答えていた。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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