ほろ苦きホーム開幕戦とかすかな光明 新体制で新たなシーズンに臨むFC今治

宇都宮徹壱

目指す方向性が見えたトレーニングマッチ

試合翌日の愛媛FCとのトレーニングマッチ。格上に対して果敢に挑んだ 【宇都宮徹壱】

 試合翌日の月曜日、今治は松山市野外活動センターにて、J2の愛媛FCとの練習試合を行った。確か去年は、試合翌日はオフだったと記憶しているのだが、今年から方針が変わったようだ。昨年の11月に岡田オーナーにインタビューした際、雑談レベルで「浦安は地域リーグ決勝大会での連戦に慣れるために、関東リーグの翌日にJクラブのサテライトと試合を組んでいる」と申し上げたのだが、もしかしたらその時の話を覚えていてくれたのかもしれない。対する愛媛は、前日のツエーゲン金沢とのアウェー戦が強風で中止となったこともあり、トップチームのフルメンバーが出場。河原和寿、瀬沼優司、阪野豊史という(前日に四国リーグを見ていた私にとっては)豪華な顔ぶれが前線に並んだ。

 カテゴリーが3つ違う「ダービーマッチ」。今治は前半こそ0−0で何とか持ちこたえたものの、後半7分にGKのキャッチミスから失点。その1分後に右からのクロスをヘディングで決められ、さらに18分と23分にも失点を重ねた(時間はストップウォッチによる計測)。戦力差で圧倒されていたとはいえ(そして前日の疲れもあったとはいえ)、この日の今治のプレー自体は決して悪くはなかった。特に前半は、持ち前のパスワークと組織的な守備が機能し、吉武監督が目指す方向性を随所で感じられるプレーが見られた。最後まで観戦したかったのだが、帰りの飛行機の時間もあったので、後半30分でピッチを後にすることにした(なお、スコアは0−4で終了。その後、サブ組で30分1本のゲームも行われ、こちらは0−3だった)。

 空港に向かう道すがら、今治の現状についてあらためて思った。昨日のリャーマス戦だけを見て帰京していれば、かなり絶望的な気分で本稿を執筆しなければならないだろう。それだけに、この日のトレーニングマッチは見ておいてよかった。敗れたとはいえ、格上の愛媛に対して果敢な戦いを見せていた今日のトレーニングマッチには、かすかな光明が感じられたからだ。と同時に「これは時間がかかりそうだな」とも思った。昨シーズンも感じていたことだが、「メソッドの構築とJFL昇格は分けて考えるべき」というのが私の考えだ。今季は地域決勝突破のためのチーム作りに徹し、メソッドはユース年代で構築・実践させていく。そして首尾よくJFLに昇格したら、両者を融合させながら、理想とするサッカーでさらに上を目指せば良い。逆にそれくらいの割り切りがないと、今季の地域リーグ突破は難しいと言わざるを得ない。

 ところで、この日の松山市野外活動センターには、20人くらいのギャラリーが集まっていた。そのほとんど(あるいは全員)が愛媛のファンやサポーターである。月曜日の午前、しかも小雨模様の中、これほどの人数がトレーニングマッチを観戦しているのには、いささか驚かされた。今治と愛媛を比較した場合、中央のメディアにひんぱんに取り上げられるのは前者だが、地域での浸透度と知名度は後者が圧倒的にリードしている。今治が真の意味で地域に根ざしたクラブとなるためには、メソッドの構築以上に時間を要することだろう。昨年から始まったムーブメントを失速させないためにも、今季こそは四国リーグを脱して全国に打って出る必要がある。そして、そのための残された時間は、決して多くはない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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