「ベトナムのメッシ」コンフォンとは? 若きスターの素顔と周囲の期待を読み解く

宇都宮徹壱

コンフォンがJリーグに与えるインパクト

カメラ目線で堂々としたポージングを披露したコンフォン。スター選手のオーラを感じさせた 【宇都宮徹壱】

 さて、今回のコンフォンの移籍は、地元自治体のみならず、アジア戦略を推し進めてきたJリーグも注目している。前出の小山氏に説明してもらおう。

「コンフォンがベトナム国民から支持されているのは、単にプレーヤーとして優れているだけでなく、貧しい家庭環境を出自としながらサッカーを通じて夢を与える存在になっているからです。そんな選手が日本で新たなチャレンジをすることは、Jリーグをベトナムの人に身近に感じてもらう良い機会になりますし、現地のサッカー少年たちが日本を目指すようになるかもしれない。そうやってJリーグのファンをアジアで増やすことは、長い目で見ればわれわれの収益拡大につながると考えています」

 すでに具体的なビジネスの動きも進んでいる。インターネットインフラ事業などを展開する企業のGMOインターネットグループが、このほどコンフォンについても個人サポートすることを発表した。再び、小山氏。

「GMOは、ベトナムでの事業拡大を見越してナショナルチームのスポンサーにもなっています。水戸は、コンフォンを獲得したことで、新たなスポンサーを獲得することになりました。彼の肖像権などの収益の一部は水戸に入りますし、ケーズデンキスタジアムにもGMOが展開するブランドの看板が掲出されます。Jリーグとしては、アジアでの放送権収入拡大と目標があるわけですが、コンフォンのようなスター選手の獲得によって一定の成果を出せれば、他のクラブも追随して、いずれ大きな動きになっていくのではないかと考えています」

 これだけ多くの期待を担っているコンフォンであるが、それでも当人は至って謙虚だ。「ベトナムのメッシ」と呼ばれていることについては「比較されるのは、メッシと僕とでは次元が違い過ぎて、正直あまりうれしくはありません。それに僕は、どちらかというとネイマールの方が好き(笑)」。Jリーグで実現させたいことは「まずは水戸でレギュラーポジションを獲得すること」。今後のキャリアについては「水戸との契約が終わっても、Jリーグでプレーを続けたい。ヨーロッパですか? 頭の片隅で考えることはありますけれど」。プロフットボーラーとしての究極の夢は「日本で大活躍することです」。

 謙虚すぎる答えには、はにかむような表情がもれなく付いてくる。これがベトナムの国民的スターの素顔なのか。正直、インタビュー中は物足りなさのようなものをずっと感じていた。だが、最後にカメラ目線での撮影を促すと、21歳の若者は見事なまでに堂々とした表情をしてみせる。それは撮影者である私のみならず、同席していたGMOやクラブの関係者も目を見張るほど、まさにスター選手のオーラを感じさせる姿であった。さすがは「ベトナムのメッシ」。一日も早くリハビリを終えて、Jリーグのピッチでその真価をいかんなく発揮することを期待したい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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