柏が目指す去年と今年の良いところ取り 突然のメンデス監督辞任も余波はない
監督交代を機により結束が固まった
柏は第3節終了後にメンデス監督が突然の辞任を発表。下平監督のもと新たなスタートを切った 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
翌13日、監督としての初仕事となった順天堂大学との練習試合(1−1)を終えた下平監督は報道陣の取材に対応し、「危機感とプレッシャーを感じている」と、就任の率直な心境を語った。
下平監督は、2004年の現役引退後、スカウトを経て09年に柏アカデミーコーチに就任。10年からU−18の監督を6シーズンにわたって務め、12年日本クラブユース選手権優勝、14年高円宮杯プレミアリーグEAST優勝など、育成年代の指導者として功績を収めてきた。現所属選手では茨田陽生以下、山中亮輔、中村航輔、秋野央樹、中谷進之介など総勢12名はU−18時代に下平監督の指導を受けており、鎌田次郎と田中順也は下平監督がスカウト時代に獲得に動いた選手である。キャプテンの大谷秀和にいたっては、現役時代の下平監督とプレーをした経験を持ち、「シモさん(下平監督)からは多くのことを学んだ」(大谷)と話す存在だ。
そういった背景もあり、すでに選手たちの信頼を得ていたことから、この突然の監督交代劇のショックや動揺は、チーム内にはほとんど感じられない。むしろ「雰囲気は良い」(大谷)、「みんなが仕切り直してまた上に行こうという気持ちになっている」(栗澤僚一)と、2人の年長者が語るように、今回の監督交代を機にチームの方向性が明確になり、結束がより固まった印象さえ受ける。
昨季と異なるサッカーに対する戸惑いと手応え
メンデス監督のサッカーは、チームに新風と困惑を与えていた 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
もともと昨年10月の、メンデス監督就任発表時の招へい理由では「若手育成に長け、ポゼッションという性質を大事にする」(瀧川龍一郎社長)とのことだった。メンデス監督自身もまた、就任当初には昨季の柏の試合を見た感想として「私のサッカーに近いと感じた」と語り、チーム始動からキャンプにかけて、選手たちには「ポゼッションとサイドを使うスピーディーなサッカーの両方のスタイルをやっていく」と伝えていた。
昨年1年間、吉田達磨監督(現アルビレックス新潟監督)の下で突き詰めてきた“ボールとスペースを支配するサッカー”はアカデミーとトップチームが同じ戦術で戦う画期的なスタイルではあったが、実際にはパスを回すことだけに捉われてしまい、カウンターに出るタイミングでスローダウンし、敵陣深くに侵入してもシュートを打たず、クロスも上げず、淡々とパスを回すだけで迫力に欠ける問題点も浮かび上がっていた。その改善点は、実際にプレーしていた選手たちが身に染みて分かっていたため、縦へのスピードとアグレッシブさを求め、迫力を持って敵陣に襲いかかるメンデス監督のサッカーに、選手たちは前向きに取り組めていた。
しかし、メンデス監督はパスをつなぐ戦術練習を行わなかった。それどころか、1トップの選手には「パスを受けに中盤に降りずに前線に張れ」と、サイドの選手にも「攻撃時にはサイドまで広がれ」と常に要求し、本来はパスをつなぐ生命線となる選手間の距離を広げ、ショートパスではなくサイドチェンジやフィードなど長いボールを好んだ。
監督が替わればサッカーが変わるのは当然だが、「アカデミーとトップチームがシームレスなサッカーをしていく」というクラブの哲学とは異なるスタイルに、選手たちは困惑を覚えた。しかも柏はJリーグ開幕から3戦全てで先制を許し、相手に引かれてスペースを見いだせない状況に陥るため、サイドへ展開してクロスを上げても跳ね返されるばかりで、守備ブロックを崩す攻撃の工夫やアイデアに欠けた。
ただ、先ほども言ったように、選手たちはメンデスサッカーに対してネガティブな感情を抱いていたわけではないし、サイドから攻めるスピーディーなサッカーを全否定していたことは絶対にない。開幕の3試合を見れば一目瞭然だが、大津祐樹、田中、ディエゴ・オリヴェイラ、山中、武富孝介ら個の特徴がふんだんに表れた攻撃には迫力があり、実際にプレーする選手も「やっていて楽しかった」(武富)と話している。したがって、困惑解消に向けて選手が抱いたのは、メンデス監督のアグレッシブなサッカーと、昨年までやってきたパスをつなぐスタイルをどう融合させていくかという共通認識である。そのためにも、選手同士はもちろんのこと、監督ともコミュニケーションをもっと増やしていかなければならない。そういった意識が強まってきた矢先の、メンデス監督の突然の辞任だった。