ドルトムントで出場機会が減った香川 トゥヘルが求める一段上のクオリティー

中野吉之伴

後半戦で抜群の成績を残すドルトムント

後半戦好調のドルトムント。その一方で、香川は出場機会が減少している 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 ここ数シーズン、ブンデスリーガが後半戦に折り返すと、ファンの興味はチャンピオンズリーグ出場権や残留争いに移っていた。優勝争いは誰に聞くまでもなくバイエルンの一人勝ち状態。昨シーズンの第26節終了時で2位ボルフスブルクとの勝ち点差は10、13−14シーズンでは2位ドルトムントとの差はなんと23。ライバル不在の形で、一人別次元のリーグを戦っているようだった。

 だが今季は様相が違う。第26節までを終えて2位ドルトムントと首位バイエルンの勝ち点差はわずかに5。第25節の直接対決が0−0の引き分けに終わったことで、ここからの逆転優勝は相当に難しいものなってしまったが、いずれにしても例年以上にスリリングな展開であることに間違いはない。

 特に年をまたいでからのドルトムントは好調だ。ここまでリーグ戦9試合で7勝2分け。後半戦だけなら6勝2分け1敗のバイエルンをも上回る首位の成績だ。14得点2失点と安定感抜群の数字も残している。

 今季から指揮を執るトーマス・トゥヘル監督は前半戦、負傷や出場停止などのやむを得ない事態以外では、あまりレギュラーメンバーを大きくいじらずにチーム内の共通理解を深めることに務めていた。まずはベースとなるものをしっかりと築き上げる。新しいチームを率いるときの欠かせない第一手だ。そんなトゥヘルが唯一積極的に動いたのが、第8節のバイエルン戦。相手の長所を抑えるべく策を講じたが、うまくいかずに1−5の完敗。王者との完成度の差を露呈してしまった。

 このときは成功しなかったが、そもそもトゥヘルは徹底的に相手チームを分析し、向こうの長所を抑えつつ、自分たちの良さを引き出せるやり方を探るのが得意な監督だ。そこには一切の妥協も雑念もない。

戦術理解が深まり、バリエーションを模索中

チームの戦術理解も深まったことで、トゥヘル監督は後半戦に入ってからバリエーションを増やす作業に入っている 【写真:ロイター/アフロ】

 マインツ監督時代に次のようなエピソードがある。とある試合前のこと、いつものようにミーティングを終えたチームは、試合会場へとバスで移動をしていた。トゥヘルの隣には、チームマネージャーのクリスティアン・ハイデルが座っていたのだが、ミーティングの内容について冗談っぽくトゥヘルにこう話しかけた。

「それにしても大胆なスタメンだな。6人も入れ替えるなんて」

 だが、トゥヘルは最初何のことを言われているのかか全く分からなかったという。6人も入れ替えたことに気付いていなかったのだ。すぐに近くに座るアシスタントコーチと話をして、「ひょっとして俺たちはちょっと極端なことをしようとしているのか? 6人も入れ替わっていたって気付いていたか? でもこれは良いスタメンだよな?」と何度も確認を取ったという。

 目の前の試合にだけ、集中していたのだ。誰が前の試合でスタメンで出ていたのか、どんなシステムでプレーしていたのかは重要ではなく、次の試合に勝つためにはどんなシステム・やり方で、そのためにはどんな選手が必要なのかがトゥヘルにとっての問題だった。

 これまでの試合の出来うんぬんだけでレギュラーを決めたりはしない。健全で高いレベルのポジション争いがチーム力を押し上げる。練習からのパフォーマンスが自分の求めるレベルになければ、容赦なくメンバーから切り落とすこともある。じっくりとベースを築き上げ、チームの戦術理解も深まったことで、後半戦に入ってからはさらにバリエーションを増やす作業に入っている。より高いレベルのサッカーへと、さまざまなやり方にチャレンジ。選手に求められるクオリティーはさらに高くなってきた。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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