若返りだけではない、なでしこ復活の条件 安易な「世代交代」に待ったをかける理由
「異物」のようにはじかれてしまう新戦力
佐々木監督は数多くの新戦力を試してきたが、ベテランへの依存度が高く、チームに融合することはできなかった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
佐々木監督はこの3年半で、数多くの人数を新戦力として試した。それらの中には、佐々木監督が兼任していた当時のU−20代表経験者も多かったが、若手選手中心で臨んだ13年のアルガルベカップなどで結果を残せなかった(日本は5位)。やはり各国のフル代表の成長に面食らい「練習ではできるのに、試合ではできない」プレーが続出したことで不安を募らせていった。
その頃「ドイツ・ロンドン組」のメンバーは、一流選手から超一流選手へのステップアップを図ろうとしていた。新しいなでしこがどんな取り組みに挑戦するのかと期待を膨らませていたわけだが、代表合宿のメニューは「佐々木なでしこ」の初期モデルを若手に継承することを主眼としたものだった。その時点で、すでに古くなりつつあったコンセプトに沿って進められる練習は、頂点に立ち続ける難しさを知った選手たちには物足りないものに映った。
こうして新戦力候補たちは、ベテランと融合するどころか、まるで「異物」のようにはじかれてしまった。
これから日本サッカー協会は、なでしこのリオ五輪予選敗退の理由を検証し、改善策を練り上げる作業に着手する。もちろん今日までの間も、思い描くサッカースタイルを貫くために、試行錯誤を諦めてはいなかった。アップデートは道半ばにして、リオ行きを断たれたのだ。今後も日本らしいスタイル、すなわち「高い技術と知性を持った選手同士が、連係しあって攻撃も守備もするというスタイル」を大きく変えずに世界と渡り合うのならば、時間と空間を奪う相手に対抗できる選手の育成と、そのメソッドの構築が重要なテーマになる。身体能力ではなく運動能力、フィジカルではなくフィットネス、という世界の潮流から目を背けないこと。他国と同じ能力を目指す必要はないにせよ、相手の志向するサッカーに対応できなければ、日本の誇る技術も出せずじまいに終わってしまう。
米国代表に見る「世代交代ありき論」への反証
W杯でMVPを獲得した米国代表のロイド(右)は33歳。チーム平均年齢も今のなでしことほぼ変わらない 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】
繰り返すが、世代交代が先決なのではない。選手の平均年齢を下げれば勝てる、というような単純な話ではないのだ。なでしこジャパンのリオ行きが事実上消滅した中国戦の先発平均年齢は27.5歳で、対する中国は24.4歳だった。だが1年前のW杯カナダ大会決勝時の米国は当時平均27.9歳で、今のなでしことほぼ同じだ。30代は5人いて(ホープ・ソロ、ベッキー・サワブラン、カルリ・ロイド、アリ・クリーガー、ミーガン・ラピーノ)、20代前半は2人だけだった(モーガン・ブライアン、ジュリー・ジョンストン)。
ここで米国の例を出したのは、日米比較のためではなく「米米比較」のためだ。つまり、米国の30代は20代とのレギュラー争いに勝っている。パワーとスピードが特徴の米国こそ主力は若手だらけかと思いきや、レギュラー陣は“アラサー年代”が多いのだ。この事実から何を感じるか(あるいは感じないか)が、なでしこの将来を左右するとも言える。
米国の例から気づくことは、20代後半以降に能力のピークを迎える選手も珍しくないということ。女性スポーツ医学・科学の専門家の間では、フィットネス能力と女性ホルモンとの関係に注目する研究が進んでいて、実際に女性アスリートが20代後半にフィットネスを向上(改善)させて成績を伸ばす例も数多くある。すなわち日本の女子サッカー界も、女性アスリートにふさわしいトレーニング環境を整えれば、20代後半以降にピークを迎える選手がまだまだ増えていいはずだ。
「世代交代ありき論」が、世の中で当たり前のこととして拡散されると、なでしこジャパンに限らず多くの女性アスリートの「復活」のチャンスまで潰されるのではないかと危惧(きぐ)している。そういう意味でも「世代交代こそが解決策」という結論には、待ったをかけたい。