よもやのドローで窮地に立つなでしこ 「他力」ゆえに厳しい予選突破の条件

江橋よしのり

福元のPK阻止と岩渕の先制ゴール

韓国と引き分け、自力での予選突破がなくなったなでしこジャパン 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 アンナマリエ・キースリー主審がペナルティースポットを指差した瞬間、リオデジャネイロ行きは絶望かと思った。私の頭の中では、あの有名なコルコバードのキリスト像の空撮写真がすーっと色を失い、同時に8月のスケジュール帳も真っ白になった。

 大阪で開催中のリオ五輪アジア最終予選に臨んでいるなでしこジャパンは、3月2日に韓国と対戦した。0−0で進んだ後半25分、DF近賀ゆかりがペナルティーエリア内でハンドの反則を取られ、韓国にPKが与えられた。

 キッカーは韓国の10番、チ・ソヨン。15歳で代表入りし、短大卒業後はINAC神戸レオネッサで活躍、その後イングランドのチェルシーに移籍すると、1年目に選手間投票による国内年間MVPも獲得した天才MFだ。対峙(たいじ)する日本のGKは福元美穂。この日が代表通算80試合目の出場となった彼女は、これまでも数々のピンチから日本を救ってきた。

 相手のPK映像を事前に見ていたという福元は、キッカーが助走を開始すると、右足に体重をかけて相手の心理を揺さぶる。次の瞬間、自分の体の左側に放たれたボールを、福元がストップした。

 絶体絶命の場面をしのいだなでしこジャパンと、そのシーンを固唾(かたず)をのんで見守っていた観客は、文字どおり止まっていた息を吹き返した。プレーが再開されると、特別でもないボールを福元が足で触っただけで、また大きな歓声が響いた。そして後半39分、相手GKが処理を誤ったボールが、背後に立つ岩渕真奈の頭に当たりゴールに吸い込まれていく。幸運というか、劇的というか。「神さまは見ているんだよ」とよく言っていた澤穂希の言葉を思い出す。

つかみかけた勝利を逃した日本と韓国

このあと福元がボールをこぼしてしまい、チョン・ソルビン(11番)に痛恨の同点ゴールを決められてしまった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 きっとあのキリスト像は、丘の上からなでしこに微笑んでいるに違いない──。

 この時点で試合が終わっていれば、そんなフレーズで原稿を締めくくれたかもしれない。しかしその3分後、今度は福元がボールをこぼし、金髪のストライカー、チョン・ソルビンに同点弾をたたき込まれた。結局、日韓どちらも、つかみかけた勝利を逃し、リオが遠のく試合となった。試合終了の笛を聞いた両チームの選手は、両ひざに手をついたまましばらく動けなかった。

 この日のなでしこジャパンは、1−3で惨敗した初戦から先発6人を入れ替えてこの試合に臨んだ。フォーメーションも、宮間あやをFWの近くに置く[4−2−3−1]にしたことで、攻撃時の選手同士の距離感は改善され、チャンスを作るバリエーションも多く見られた。

 戦略が見えず、局面ごとに「ただ必死で頑張っているだけ」だったオーストラリア戦に比べ、この韓国戦では意図の見えるプレーが数多く披露された。先発で起用された川村優理の斜め方向への飛び出しと、上尾野辺めぐみのスルーパス、ペナルティーエリア付近で宮間を使ったワンツーや、同じく宮間のエリア内でのワンタッチパスなどで、相手の意表を突くことができた。

 でも、勝てなかった。その理由を、大儀見優季は「いつスピードアップするかが定まらなかった」と指摘する。また宮間も「攻撃のスピードを上げるタイミングが早すぎて、相手を崩しきる前に前が詰まってしまった」と、同じことを気にしていた。

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著者プロフィール

江橋よしのり

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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