若きプロモーターの熱意が詰まる興行 ボクシングの魅力伝える「DANGAN」

船橋真二郎

ボクシングの本質的な魅力を伝えることが目的

ジムの垣根を越え、ファン目線の好カードをマッチメークするDANGANをプロデュースしているプロモーターの古澤将太さん。DANGANを通じてファン層を拡大し、ボクシング人気を高めることを目指す 【船橋真二郎】

『DANGAN(ダンガン=弾丸)』というボクシング興行をご存じだろうか?

 日本ボクシングコミッション(JBC)によると、2015年に東京・後楽園ホールで行われたボクシングの興行数は全部で100。そのうちの実に31回、3分の1近くを占めているのがDANGANである。

 DANGANがスタートしてから10年目になる今年、興行数はすでに通算150回を突破。12年からは年間20を超える興行を開催している。近年、急激に興行数を増やしてきたのには理由がある。そのひとつは常に好カードを提供し、ボクシングファンに支持されてきたからだ。それもメインイベントだけにとどまらない。前座にも思わず唸らされるような渋いカードが組まれることが多く、マニアの心をくすぐってきた。このDANGANをプロデュースするプロモーターの古澤将太さんは言う。

「大前提として、ファンが見たい、選手やボクシング関係者も見たい、そんな面白いカードをマッチメークすることがあります。ボクシングの本質的な魅力がしっかり伝わる興行を提供することで、ファン層を広げ、もっとボクシングの人気を高めること。それがDANGANの目指すところです」

好カードをジムの垣根を越えて実現する

 プロとして当たり前のことではないかと言うなかれ。ファンの望むカードを実現することが、そう簡単ではなかったのが、これまでの日本のボクシング界だった。そのネックになってきたのが欧米とシステムの異なる『ジム制度』だ。

 マッチメークには大きく2つの側面がある。ひとつは魅力的なカードを観客に提供するという興行的な側面。もうひとつは選手をどうステップアップさせるかというマネジメントの側面。前者は言うまでもなく興行主たるプロモーターの視点で、後者はマネージャーの視点になるが、ときには相反する両者の役割を日本ではジムの会長が担う。そうなると手塩にかけた看板選手を負けさせたくないという心理が働きがちで、守りのマッチメークになることも多かった。

 このようなジム制度の実情の中でDANGANがユニークなのは、中立的な立場に立ってマッチメークしていること。日本のルール上、プロモーターライセンスを取得するにはジムが前提で、昨年夏に興行名称で法人化し、古澤さんが代表を務める株式会社DANGANにも前提となるプロ加盟のジムはある。ただし、他のジムと決定的に異なるのがジム運営を中心に据えていない点だ。プロモートの機能を独立させ、ジム興行では難しかったファン目線の好カードを、ジムの垣根を越えて実現することを最大の目的としているのである。

「ぬるいマッチメークは一度もなかった」

東洋太平洋スーパーフェザー級王者の伊藤雅雪(左)と団太路・伴流ジム会長。伊藤は強い選手と盛り上がる試合をすることをポリシーにDANGANでキャリアアップしてきた 【船橋真二郎】

 DANGANのスタンスは多くの選手たちにも受け入れられている。「僕はDANGANで育った」という東洋太平洋スーパーフェザー級王者の伊藤雅雪(伴流)もそのひとりだ。
「強い奴と強い奴がやってこそ面白いというのがボクシングの根本。どちらかの勝ちが見える試合は自分も見たくないし、盛り上がらないのは分かりきっている。負けるリスクなんて怖くない。ぬるいマッチメークは一度もなかったと思うし、これからも強い奴とやることは絶対に曲げたくないです」

 高いセンスと鋭いカウンターを武器に上昇してきた25歳のホープは、日本ランカー時代の14年7月、元東洋太平洋王者で当時はIBFとWBAで世界ランク入りしていた強打の仲村正男(渥美)とノンタイトル戦で対戦。現在もIBFランクに踏みとどまる関西の雄との息詰まる戦いを制している。
「早くタイトルに挑戦したい気持ちもある中で、仲村選手とやることになったときはしびれました。これぞという試合を組んでくれたな、と」

 9人中7人の日本人世界王者を含めて、有力選手の大半がアマチュア経験者という昨今、叩き上げの伊藤が力をつけてきたのも、プロとして意気に感じるような試合を勝ち抜いてきたからと言えるのかもしれない。

強い相手と戦いボクサーの誇りを貫く

日本スーパーフェザー級ランカーの東上剛司(右)と三浦利美・ドリームジム会長。DANGAN常連の東上はプロ13年目で初のタイトル挑戦を目指す 【船橋真二郎】

「相手が強いほうが練習にも身が入るし、自分も強くなれるのでDANGANは選手にとってもいいと思う。僕は戦績もぼろぼろやし、やるだけやったろ、というのもありますけどね」

 そう言って笑うのは日本スーパーフェザー級7位にランクされる東上剛司(ドリーム)。プロ13年目、35歳のベテランである。

 過去には5連敗を喫し、試練の時期を過ごしたこともある東上は約3年ぶりに日本ランカーに返り咲いて迎えた14年2月、元日本王者と対戦し、僅差の判定で敗れてしまう。当時日本1位。ランク最上位の指名挑戦者として、時期が来れば優先的にタイトルに挑戦できる可能性が高かった。無難な相手を選択し、確実に勝ち続けることでランクをキープすることは多々あるのだが。
「もちろん負けるつもりはなかったので悔しいけど、やって良かったと思ってます。僕のランクが上がったのは、上がコケたり、運が良かったから。それでアンパイに勝って、タイトルをやってもシラケるだけなので」

 現在2試合続けて引き分け中。13年9月以来、勝利から遠ざかるが、4月下旬に予定される次戦に内定しているのが4年半前に敗れた日本ランカーだ。悲願のタイトル挑戦もそういう勝負に勝ってこそと、ボクサーの誇りを貫く。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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