レスターの強さは「バランスの良さ」 自信が膨らむ岡崎のチーム評

田嶋コウスケ

「レスターの心臓部」はカンテ

岡崎は「彼がいなくなったらまったく別のチームになる」とカンテ(左)を絶賛する 【写真:ロイター/アフロ】

 さらに、レスターの鍵を握っているのが、エンゴロ・カンテとダニー・ドリンクウォーターのセントラルMFであると、岡崎は言う。

「あの2人じゃないと、今の勝ち方はできない感じがします。2人とも同じタイプのプレーヤーで、どっちもボールを取ったら、前を見て展開する。だから、まぁ忙しいサッカーになるんですよ。でも、どちらかの選手が外れて、代わりにあそこでゲームメークをするようになったら……勝てるチームにならないかもしれない。要は、あの2人はラニエリのサッカーで必須なんです。でも、ドリンクウォーターが繋ぐチームにいたら、(今季のような好プレーを見せているか)分からない。だけど、このチームの戦術なら確実にフィットする」

「4DF+4MF」のブロックで守備を固めると、対戦相手は密度の低いサイドのスペースに逃げていく傾向がある。すると、敵はサイドからクロスボール。だが、CBの2人には高さと強さがあり、いとも簡単に跳ね返していくのだ。この2人は横への揺さぶりとスピードにめっぽう弱いが、ロングボールやクロスボールには無類の強さを発揮する。

 そして、クリアのセカンドボールを拾うのが、カンテとドリンクウォーターのセントラルMF。ボールを取ったらすぐ前を向き、バーディーや岡崎を見つけてカウンターにつなげる──。つまり、相手が闇雲にクロスボールを上げる展開なら、試合は「レスター・ペース」と見ていい。

 チームの肝であるプレッシングも、セントラルMFの2人が効いている。特に、岡崎をして「レスターの心臓部。一番重要な選手で、彼がいなくなったらまったく別のチームになる」と絶賛するのがカンテだ。相手の嫌がるところに顔を出してはインターセプトし、ボールを前後左右に散らして攻撃の起点になる。

「適材適所」は前線にも当てはまり、独特の間合いからシュートやドリブルを繰り出すリヤド・マレズは、一本調子になりがちの攻撃にアクセントをつけている。運動量抜群の岡崎も、MFと最前線をつなぐ「橋渡し役」として機能することで、攻守両面に深みを加える。事実、元イングランド代表で、トッテナムの監督を務めた経験も持つグレン・ホドル(現・解説者)は、岡崎の存在価値について「彼の貢献は見落とされがち。岡崎がバーディーと中盤のスペースをうまく埋めている。だから、チームの距離感が良い」と褒めている。

「『俺の役割は何なのか?』と考えたら、ボールを拾って、拾って、最後のところでゴール前に顔を出す。そして、危険なプレーをする。もちろん、このカウンターサッカーで、マレズとバーディーがいなかったら勝っていないと思う」

 ゴールランクで首位を突っ走るバーディーの“覚醒”もあり、レスターは連勝街道を突っ走るようになったのだ。

雑草軍団に漂う雰囲気の良さ

レスターがいかに団結しているかは、「すごくチームの雰囲気が良い」という岡崎のコメントからもうかがえる 【写真:ロイター/アフロ】

 もうひとつ記しておきたいのが、レスターに漂う「雰囲気の良さ」である。彼らがいかに団結しているか、取材中も至るところで感じることができ、岡崎も次のように話している。

「すごくチームの雰囲気が良い。ラニエリ監督の特徴なのか、もともといるイングランド人コーチが良いのか。ピリピリしていない。でも、練習になると真面目にやる。ドイツみたいに『練習を徹底的にやって規律も厳しく』というのがあまりない。

 プレミアの選手は、いろいろクラブを回ってきた選手が多いじゃないですか。レスターにもいろいろなチームを渡り歩いてきた選手が多い。経験を積んで、中には苦労してきた人もいる。だから、みんなやるべきことがちゃんと分かっているし、努力もしている。すごく雰囲気が良いです」

 エースのバーディーは8部リーグのセミプロ出身で、マレズとカンテはフランス2部リーグで技を磨いた。マンチェスター・ユナイテッドのユース出身のドリンクウォーターは、下部リーグへのレンタルを繰り返した後、レスターに放出された。ユナイテッドでは、1軍での出場が1度もない。01〜06年までチェルシーに在籍したフートも、退団後はミドルスブラやストーク・シティなど下位クラブを渡り歩いてレスターに辿り着いた。

 それぞれ苦労を重ねてきた分、団結して戦うことの価値を誰よりも深く知っている。雑草軍団であるゆえ、プレミアリーグで一泡吹かせたい気持ちも強いのだろう。そう思うと、彼らの長所が「走力」や「ハードワーク」にあることも素直に頷ける。

 14日のアーセナル戦に敗れ、2位トッテナム、3位アーセナルとの勝ち点差は「2」に縮まった。それでも、1軍スカッドの移籍金・総額がわずか5440万ポンド(約90億円)で、4億1880万ポンド(約700億円)のマンチェスター・Cの約8分の1、2億5190万ポンド(約420億円)のアーセナルの約5分の1しかないレスターに、イングランドのサッカーファンは淡い夢を抱いている。

「優勝? プレッシャーを感じずにいければ、このままいけると思う。プレッシャーを感じた瞬間、終わってしまうのではないか。このチームの場合は、勢いに乗って、今の調子でいっちゃうのがいいですね」(岡崎)

「降格候補」から「優勝候補」に這い上がってきたレスター。岡崎の言う通り、あれこれ深く考えずにひたすら邁進するのが「レスターらしさ」だろう。もちろん、タイトルに手が届かなくても失う物など何もない。だが栄冠を掴むことができれば──燦々と光り輝くイングランドサッカー史に、その名を刻むことになる。

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著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

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