データ分析の材料は“過去”から“今” 野球データ分析の未来を山本一郎氏が語る

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故障時のデータ活用が重要な理由

13年には大活躍を見せたグリフィンだが、そのスピンのかかったストレートはひじに負担をかけ、結果的に手術に至った 【Getty Images】

 近年のデータ分析技術の向上により、前年に好成績を残した選手はそのまま翌年もそれに近い成績を残せるようになっている。

「セイバーメトリクスによって夢がなくなったのもまた真理なのかと思います」と山本氏も語ったが、前年まで安定した成績を残した選手を組み合わせれば、ある程度の成績を残すチームを作れる。しかし、その予想を狂わせるのが“故障”である。

「期待値として戦力分析をして年間計画を作りますが、実際にはこれはあてにならないことが一番の辛さ、職業上の難しさです」と山本氏も明かすようにどんなに好成績の可能性を持つ選手でも故障すると、その後のリハビリによる離脱があり、さらにその後も復帰できるか、保証はなくなる。

「故障・非常時級」のデータ分析が重要なのは、そのアクシデントがどれほど深刻なのか、復帰までにかかる時間の長さ、能力はどこまで回復するのか、などの疑問を解消することが求められる点にある。

 特にMLBの場合、選手・代理人が大きな力を持っており、彼らは手術を回避する傾向にあるため、球団から手術を提案しても実現までには困難を極める。したがって、データ分析から得られた客観的な証拠は、手術を提案する上でも重要になり、ひいてはチームの長期的な戦力計画においても重みを増す。

 15年までアスレチックスに在籍したA.J.グリフィンは13年に200イニングを投げ、14勝(10敗)を挙げる活躍をしていた。グリフィンはスピンのかかったストレートを武器にしていたが、それがひじに負担をかけ、トミー・ジョン手術が必要になった。そこで、データ担当はMRI(核磁気共鳴画像法)で撮影した画像などからひじの物理モデルを作成。どのような形からひじに負担がかかり故障したのか、復帰後にどうすればMLBで通用するかをデータ分析し、グリフィンに早期手術を受けさせた。

画像分析は選手の技術を分解する

 さらに、画像による分析は故障発生時のみ活用されるものではない。15年からMLBで本格導入されたSTATCASTはフィールド上にいる選手、ボールの動きを追尾する。従来であれば選手の疲労というのは経験豊富なトレーナーが管理していたが、打者のスイングの角度、打者走者が一塁に駆け抜ける際のスピードといったものを分析することで把握できる。

 特に野球は他の競技と違いセットプレーからのプレーが大半であるため、選手のベストコンディションとの比較が簡単だ。その選手のどのような特徴が、好成績の要因を支えているのかを技術面、身体能力面などさまざまな側面から分析。つねにそのプレーをチェックし、ベストの状態と比較をすることで、その選手の成績を予測することができる。

「もはや選手の成績はアセット(財産)ではない」と山本氏も述べたが、従来のセイバーメトリクスでは、過去の成績をもとに未来の成績を予想していた。だが、“ポストセイバー”はその選手の今を分析し、その特徴を分解していくことで、その後の試合結果やシーズン全体の成績などが予測できる、と山本氏は展望する。

 1シーズンで140〜160試合という他に類をみない数をこなし、独自の進化を遂げてきた野球のデータ分析。果たして画像分析、という技術の進歩がグラウンドにどんな変化を与えるのだろうか?

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