僕が箱根でなく米国留学を選んだ理由  19歳・スピードランナーの挑戦

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甘くはなかった米国への道

 米国留学といっても、思いついてすぐにかなうものではない。実現には2つの要素が必要になる。1つは現地の大学との交渉、もう1つは高い語学力だ。1つ目については、師事していた國學院久我山高の有坂好司監督が知人に相談し、「米国の大学に行きたがっている日本の陸上選手がいる」といくつかの大学にあたってくれた。その中で選んだのがバークレー校のクロスカントリー部。五輪や世界選手権に複数選手を送り込んだコーチが率いる強豪チームである。

 語学力については、文武両道を貫いた岡田の努力のたまものだ。國學院久我山高は駅伝の強豪であると同時に、都内屈指の進学校でもある。かねてより「将来的なことを考えると、陸上一筋というよりはいろいろな可能性を持たないと」と考えていた岡田は、部活動と同様に勉強にも力を入れており、得意の英語は模試で偏差値70近くを取っていた。

部活動と勉強の両立に苦労するも、「留学したい」という覚悟は揺るがなかった 【スポーツナビ】

 留学にはTOEFLとSAT(米国の大学に出願する高校生のためのテスト)のスコアが必要で、難関のバークレー校だと相当なレベルが求められる。英語に自信があった岡田ですらとても手の出るスコアではなく「(当初は)ちょっと甘く見ていてた」と痛感させられた。受験勉強はとにかくつらく、「(米国留学を後輩には)絶対におすすめはしない。本当に大変なので」と即答するほど。それでも部活の合間を縫って猛勉強し、週に1、2度は部活動後に予備校にも通った。競技がおろそかになるのではと不安を抱えながらも、「今やることを頑張るしかない」と割り切る日々。そして卒業直後の昨年5月、念願の合格通知を受け取り、喜びもつかの間、7月頭には米国へと旅立った。

まったく異なる米国の練習

 念願の米国式のトレーニングは、日本とはまったく違っていた。一言で言うならば“量より質”。日本での主な練習場所はトラックかロードだが、クロスカントリーシーズンにあたる秋冬は、ジョッグも強度の高いポイント練習も全てクロスカントリーかトレイル(不整地)で行う。走行距離も駅伝の強豪校であれば最低週100キロは走り込むというが、岡田の場合は60マイル(約96キロ)前後だという。春には本格的なトラック練習も始まる。

 また、日本より個人の成長があってのチームという発想が強いと感じている。「チームのために一緒になって走ろうというよりは、俺が勝ちたいからいく」という雰囲気を、岡田も気に入っているという。さらに、1500メートルを3分39秒(ちなみに日本記録は3分37秒42)で走る先輩がいるなど仲間のレベルも高い。ただひとりのアジア人である岡田にも皆気さくに接してくれ、恵まれた環境での切磋琢磨(せっさたくま)に気持ちを奮い立たせているようだ。

 ただ渡米してすぐは、陸上よりもとにかく授業についていくのが精いっぱい。慣れない英語でのレクチャーに加えて課題も多く、1週間で400ページほどある文献を読むこともあった。当時を振り返ると「単位どころか、この授業を最後までやり切れるのかというような状態だった」と苦笑い。しかし、無事に最初の1学期をやり切り、「陸上にかかわらず、米国のわりとレベルの高い大学で半年過ごせたことで、少し自信がついたなというのはすごく感じます」と、意識が少しずつ変わってきた。

 日本の陸上仲間には、自身と同じようにこれまでとは違った方法で強くなることに興味を持つ人も多いとは岡田の弁。いずれ先駆者と呼ばれるかもしれない、と尋ねるとこんな答えが返ってきた。

「一番恐れているのは、もし僕が全然成功しなくて、『やっぱり日本人には米国の練習は合っていないんだ』と結論づけられること。そうすると今後さらなる発展はない。成功してこそ初めて自分の言葉に説得力が出てくると思うので、とにかく結果ですね」

 今後は米国の大学トップレベルを目指しながら、1500メートルの日本記録更新をターゲットにしていくという。
 野心あふれる19歳の挑戦はまだ始まったばかり。目先の結果ではなく長い目で見守ることこそ、後に続くであろう未来のメダリストたちの道を切り開くことに続くのではないだろうか。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)

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