乳がんと闘う女子レスラー亜利弥’の挑戦 「好きなことがあれば胸いっぱいできる」

ミカエル・コバタ

痛みに耐え歓喜の勝利

ストリートファイト有刺鉄線ボードデスマッチでデスマッチ初体験となった 【田栗かおる】

 そして、迎えた1.8新木場大会当日。残念ながら、電流爆破バットデスマッチは管轄消防署の許可が間に合わず、ストリートファイト有刺鉄線ボード6人タッグデスマッチに変更された。それでも、亜利弥’にとって、デスマッチは初体験で、危険な試合形式であることに変わりはなかった。

 当初、亜利弥’は田中、菊タローと組み、大仁田&ダンプ松本&ミス・モンゴルと対戦する予定だった。ところが、全選手入場後、「大仁田さんとタッグを組みたい」との亜利弥’のアピールにより、急きょ、大仁田と菊タロー(この日はKIKUZAWAとして戦う)が入れ替わる形となった。

 いざ、試合となれば、対戦相手も容赦はしない。亜利弥’はダンプから竹刀でたたかれ、有刺鉄線ボードにたたきつけられるなど、非情な攻撃を受けた。しかし、初タッグとなった大仁田との連係プレーも冴え渡り、最後は大仁田とのダブル・ブレーンバスターでKIKUZAWAを投げると、亜利弥’がカバーして3カウントを奪い歓喜の勝利を飾った。

北斗晶さんから激励「本当の敵をたたきのめして」

北斗晶さん、ジャガー横田、大仁田さんからも激励のメッセージを受ける 【田栗かおる】

 サプライズも多々あった。試合開始前には、“女子プロレス界のカリスマ”長与千種が登場。「今日は亜利弥’のことがどうしても気になって来ました」として、大仁田と2人でロープ上げをして、リングに亜利弥’を招き入れた。

 師匠のジャガー横田からは、「お祝いに来てほしい」と、4.3新木場で開催される「Jd’生誕20周年〜同窓会だよ全員集合!!〜」への参戦オファーを受けた。

 さらに、同じ乳がんを患い、15年9月に右乳房全摘出手術を受けた北斗晶さんから、堀田祐美子に手紙が託され、「やられても立ち上がるのがプロレスラー。そんな亜利弥’選手を見せてください。リング上では対戦相手が敵だけど、本当の敵であるがんをたたきのめしてください」と激励のメッセージが寄せられた。

 タッグを組んだ大仁田は「いろんな会場で、1枚1枚チケットを売っていた亜利弥’の姿を見ました。もう1回、2回、3回と絶対にリングに戻ってきてほしい」とエールを送ると、「絶対に、このリングに帰ってきます。そのときまで覚えておいてください」と絶叫して、亜利弥’はリングを下りた。

 控え室に戻っても興奮が冷めやらない亜利弥’は「マーくん(田中)がいなかったら、こんな大会できなかった。マーくん、大仁田さんに感謝します。お祭り気分で盛り上がってうれしい。がんも絶対倒したい。竹刀がこんなに痛いものかと思ったけど、がんでつらいことがあったら、この痛みを思い出してがんばります」とコメントした。

 体中をがんから来る痛みに襲われている亜利弥’だが、引退する気持ちはない。「1年後、2年後にまた試合ができたらいい」と、ネバーギブアップの精神でがんと闘っていく覚悟だ。

元フットサル選手の久光重貴さんの影響

プロレスに限らず多くの格闘技にも挑戦してきた亜利弥’。最後まであきらめず、1年後、2年後にも再びリングに上がるために 【田栗かおる】

 プロレスのみならず、もともと格闘技にも興味をもっていた亜利弥’は、Jd’を1年で退団後、理想とする団体を求めて、大日本プロレス→LLPW→再びJd’とさまよい続けた。フリーとなってからは、総合格闘技の「SMACK GIRL」「DEEP」「AX」、キックボクシングの「J―NETWORK」などのリングにも果敢に参戦。今では“伝説の女子格闘家”となった、しなしさとこと対戦した経験もある。

 そんな亜利弥’が、20周年記念試合で今度はデスマッチにチャンレンジしたのだから、彼女のプロレス・格闘技人生は濃密なものになったはずだ。

 亜利弥’が同じアスリートとして、強い影響を受けたのが、肺がんと闘いながらプレーを続ける元日本代表フットサル選手の久光重貴さん(湘南ベルマーレ)の存在だ。
「久光さんのことを知らなかったら、プロレス界から、そのままフェイドアウトするか、引退していた。久光さんとはがんの罹患場所は違いますが、抗がん剤治療や新薬を試しながらのトレーニングに心を打たれました」(亜利弥’)

 そして、亜利弥’は「ステージ4で病院から、絶対安静の指示が出ている人たちには、私がプロレスを続けることで、『好きなことがあれば、胸いっぱいできるんですよ』ということを伝えたい。偉そうなことは言えませんが、私の生きざまで元気になっていただけたり、何かを感じ取ってくださる方がいたら最高にうれしいです」と語った。

 これからも、亜利弥’の挑戦はまだまだ続く。1年後、なんらかの形で、21周年を祝うリングに彼女が立っていることを願ってやまない。

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