箱根駅伝“3強”の明暗を分けたのは? 青学大にV2引き寄せた“陰のMVP”

石井安里

予想外だったレース展開

青山学院大は1区で久保田和真(右)が抜け出し、流れを大きく引き寄せた 【写真:アフロスポーツ】

 第92回箱根駅伝は青山学院大が2連覇を達成、2位に東洋大、3位に駒澤大が入り、“3強”の地位が揺らぐことはなかった。

 ただ1つ予想外だったのは、接戦ではなく、3校それぞれが単独走になったことだろう。青山学院大は1区の久保田和真でトップに立ってから一度も首位を譲らず、1977年(第53回大会)の日本体育大以来、39年ぶりの完全優勝。東洋大は2区で2位に浮上すると、3区以降は一人旅。1区で出遅れた駒澤大も、5区で3位に浮上してからは独走が続いた。気温が上がったことで実力差の出やすいレースとなったが、戦力きっ抗の戦国時代は去り、上位校それぞれのポジションが確立された大会となった。

1区と3区に誰を配置するか

ハイペースが予想された1区に誰を置くか。“3強”の指揮官は選択を迫られた 【写真は共同】

 昨年12月29日の区間エントリーで、青山学院大は今季の出雲駅伝3区、全日本大学駅伝4区で共に区間賞の久保田を、東洋大は全日本2区で区間賞の服部弾馬を、それぞれ補員に登録し、互いの様子をうかがった。駒澤大は出雲と全日本でともに1区だったエースの中谷圭佑を3区に、1区には過去2回復路を走った其田健也を置いた。久保田と服部弾は当日変更で主力が集う1区に入るのか、3区なのか、注目が集まっていた。

 この区間エントリー後すぐに、青山学院大は久保田の1区投入が決まったという。東洋大は、「1区のハイペースに対応できるのは弾馬と上村(和生)しかいない」(酒井俊幸監督)と、この2人を補員にまわしていた。だが服部弾は今季、スピード強化に重点を置いてきたことから、箱根駅伝直前にはスタミナに不安を抱えていた。服部弾を1区に起用した場合に求められるのは、5年前の第87回大会で区間賞を獲得した大迫傑(早稲田大、現・ナイキオレゴンプロジェクト)のような、序盤から飛び出して後続を引き離す走りだが、それは難しい状況だった。そこで上村を1区に起用し、2区のエース・服部勇馬、3区・弾馬の兄弟でトップに立つことを狙った。駒澤大も同様に、1区の其田で好位置につけ、2区の工藤有生、3区の中谷で勝負を懸ける策を採った。

 上村と其田は共に5000メートル13分台の記録を保持しているが、スピード型というよりは、長い距離を押していく走力がある。そして服部弾と中谷は、スピードと爆発力が持ち味。流れを引き寄せる勝負強さを持つ久保田、抜群の安定感を誇る一色恭志の1・2区で先手を取り、3区には箱根初出場の秋山雄飛を起用した青山学院大・原晋監督に対し、東洋大と駒澤大は3区勝負の似通ったオーダーを組んだ。

 まず1区。全21選手がハイペースに対応したが、8キロあたりから遅れる選手が出てきた。すると、其田も11.6キロで先頭集団から脱落。久保田は12月末まで調子が上がらなかったというが、数日間で見事に調整し、16キロでスパート。ライバルの横手健(明治大)を振り切って、1区歴代3位の1時間01分22秒で区間賞を獲得した。

 東洋大の上村は53秒差の7位でたすきリレー。服部勇をもってしても、青山学院大・一色が相手では、2区での逆転は難しい差だが、3区終了時までにトップに立つことを考えれば合格点だ。上村は1時間02分15秒の好タイムで、東洋大は予定通りに滑り出した。しかし、駒澤大の其田は久保田から1分50秒遅れの13位で、大きく出遅れた。

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著者プロフィール

静岡県出身。東洋大学社会学部在学中から、陸上競技専門誌に執筆を始める。卒業後8年間、大学勤務の傍ら陸上競技の執筆活動を続けた後、フリーライターに。中学生から社会人まで各世代の選手の取材、記録・データ関係記事を執筆。著書に『魂の走り』(埼玉新聞社)

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