箱根駅伝“3強”の明暗を分けたのは? 青学大にV2引き寄せた“陰のMVP”

石井安里

“想定以上”だった青学大・秋山の好走

 東洋大は2区の服部勇が、歴代5位タイの1時間07分04秒で2年連続の区間賞。青山学院大との差を22秒に縮めた。しかし、いつもならば前半から飛ばす3区の服部弾が、暑さを考慮して5キロを抑えて入った。すると、快調なペースでトップを走る青山学院大の秋山との差は、あっという間に50秒近くに広がった。服部弾は5キロからペースを上げようとしたが、思うように体が動かず。4区への中継点では、1分35秒まで開いてしまった。

一色(左)からたすきを受けた秋山は、初の箱根駅伝で地力を発揮 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 秋山は3区歴代5位となる1時間02分24秒の快走で区間賞。兵庫・須磨学園高3年時には全国都道府県対抗駅伝の4区で区間賞、大学では2年時に全日本大学駅伝3区で6位の実績があり、能力を高く評価されていたが、故障が多く、目立った結果を残せていなかった。それが、初出場の箱根で学生トップクラスの服部弾と中谷に勝利。テレビ放送の解説をしていた前・早稲田大駅伝監督の渡辺康幸氏(住友電工監督)も、早い段階で「このまま往路優勝したら、表彰されるべきは秋山君」とコメントしたが、その通り、秋山が今大会の“陰のMVP”と言えるだろう。

 服部弾は1時間03分37秒で区間3位と、不完全燃焼に終わった。3区で予想外の展開になったことが、4区のルーキー・小笹椋の走りにも影響を及ぼした。絶好調の5区・五郎谷俊に接戦で渡すプランは崩れ、五郎谷に渡ったときには2分28秒差。五郎谷が1時間19分台で走り切り、青山学院大の5区・神野大地に36秒しか負けなかっただけに、3区の誤算が惜しまれる。

 駒澤大は、2区の工藤が区間4位の走りで6位に浮上。3区の中谷は秋山を上回るペースで飛ばしたが、後半に失速。一度は追いついた山梨学院大に抜き返され、4位で初出場の4区・高本真樹へ。中谷は1時間02分53秒で区間2位と決して悪くなかったが、箱根駅伝では3年目にして初めて区間賞を逃した。出遅れを取り返そうという覚悟が、気負いにつながったのだろう。

 駅伝のセオリー通り、先手必勝に出た青山学院大と、3区に懸けた東洋大と駒澤大。秋山の走りが、原監督、そしてライバル校陣営の想定以上だったこと。選手層の差や、主要区間を任せられる主軸の数の差もあるが、序盤の戦略の違いが勝敗を分けた。

一強時代を阻止する大学は?

東洋大はエース・服部勇(写真)らが卒業。下級生の頑張りが求められる 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 青山学院大はこの春、“最強世代”といわれた久保田、神野、小椋裕介らが卒業する。一時は来季の戦力ダウンが懸念されていたが、一色や秋山、4区で2年連続区間賞の田村和希、8区区間賞の下田裕太が中心となり、6区で区間2位のルーキー・小野田勇次らも台頭するなど、次回も強力だ。

 追う一番手の東洋大は、服部勇ら箱根を走った5人が卒業。現況では青山学院大に勝つのは厳しいが、現2・3年生の頑張りが昨年11月の全日本大学駅伝初優勝を引き寄せたことは間違いない。流れ次第では、面白い戦いができそうだ。

 駒澤大は育成のシーズンだった今季を経て、中谷らが最終学年を迎える新年度に勝負する。このほか、駒が豊富な早稲田大、今春に高校トップクラスの選手がこぞって入学する東海大と、箱根駅伝4・5位の2校が“3強崩し”に挑む。

 青山学院大の黄金時代到来か、一強時代を阻止する大学が出てくるのか――新たな戦いは早くも始まっている。

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著者プロフィール

静岡県出身。東洋大学社会学部在学中から、陸上競技専門誌に執筆を始める。卒業後8年間、大学勤務の傍ら陸上競技の執筆活動を続けた後、フリーライターに。中学生から社会人まで各世代の選手の取材、記録・データ関係記事を執筆。著書に『魂の走り』(埼玉新聞社)

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