“手探り”で切り開くアジア戦略 大宮アルディージャのユニークな試み

宇都宮徹壱

サッカー教室と「うちわプロジェクト」

「うちわプロジェクト」など現地でのサッカー教室だけではなく、新たな展開も出てきている 【写真提供:大宮アルディージャ】

 昨年2月の最初の渡航はプライベートの延長という感じでしたけれど、6月にはクラブの仕事として、しっかりと現地を視察することができました。そして10月の終わりには、最初のサッカー教室をラオスで開催することができたんです。去年はラオスで25人、タイで130人を招いてサッカー教室をやりました。タイに関しては、これも大学時代のつてで、チェンライFCのGMとつながりができて、チェンライで開催することができました。自分は本当に人に恵まれていたと思っています。

 今年は3月にインドネシアのジャカルタとバリで、そして11月にラオスとカンボジアでサッカー教室をやりました。去年に関しては、私のネットワークがある国で、JCBさんを連れて各地で開催したんですけれど、今年からはJCBさんの方から開催する国を選ばせてほしいというリクエストをいただきました。「自分たちのクレジットカードをPRしたい国でやりたい」ということで、その代わりにしっかりと予算を付けていただけました。それと今回はJCBさんだけでなく、Jリーグを通じて国際交流基金からも支援をいただいています。

 実は20年の東京五輪に向けて、Jリーグと国際交流基金がタッグを組んで、アジアに対しての活動を始めているんですね。具体的には、五輪が開催される頃にU−23になっている年代を対象としたクリニック。その候補にラオスが挙がったときに「ラオスだったら、Jクラブの中では大宮が最初に進出している」ということで、われわれにお声がかかって、国際交流基金ともつながることができました。

 ラオスに関してはもうひとつ面白い話があって、JICA(国際協力機構)の「うちわプロジェクト」に協力させていただきました。私も知らなかったのですが、日本のうちわの90%が香川県で作られているんですね。一方、ラオスではうちわ作りに適した竹が採れる。そこでJICAを通じて、香川のうちわ作りの技術をラオスに伝えて、ラオスで作られたうちわをJリーグのグッズとして商品化して日本で販売すると。日本の技術を伝えてお金を稼げるようにするというのは、それこそJICAがやりたいことだし、Jリーグとしても国際交流とビジネスの面で非常に良い話ですよね。ですから現地でのサッカー教室だけでなく、そういった新たな展開というものも最近は出てきました。

“バカ代表”だからこそ、ここまで来ることができた

 私は常々自分のことを“バカ代表”だと言っています。昔から特に勉強ができるわけでもないし、英語にしたってあらためて学び直しているところです。バカなので、考える前に身体を動かしていくしかない(笑)。ある先輩からも「インテリばかりでは組織は大きくならない。秋元はバカ代表で突き進め」と激励されて目からウロコでした。私の取り柄は、この性格とコミュニケーション能力、そして常に周りの人から助けてもらえること。そういう特技で、何とかここまで来ることができたのかなと思っています。

 特に人には本当に恵まれましたね。大学のサッカー部の先輩・後輩もそうですし、JCBさんもそうですし、Jリーグや国際交流基金やJICAの皆さん、そしてメディアの皆さんもそうです。気がついたら、そういった人たちを巻き込みながら、アジアでの活動が広がっていきましたし、ラオスの首相にも2年続けてお会いすることができました。トップチームの現場しか知らなかった自分が、サッカーを通じて各国の要人や大使の方々とお会いできるなんて、2年前にはまったく想像できませんでしたね(苦笑)。

 おかげさまでこの2年間の活動で、大宮とアジアの国々とのパイプはできました。昨年10月にスタートしたサッカー教室も、ラオス、タイ、インドネシア、そしてカンボジアと続けてきて、昨日(11月15日)までで1000人を超えました。現場ではそれなりに苦労もありましたが、現地の子供たちの笑顔を見ると、やっぱり新たなモチベーションが湧きます。今後の課題としては、ここまで構築してきたものをクラブとしてどう発展させていくか、ということ。先ほどもお話しましたように、クラブとしてアジア戦略はまだスタートしたばかり、手探りの段階です。とはいえ、大宮がJ1に復帰することになりましたので、今後はアジア戦略にも弾みがつくと思います。

 私自身が考えるアジア戦略の今後ですが、大宮というクラブが、アジアでも世界でも通用するようなクラブとなるための一助になるような活動のひとつになればと思っています。そして、日本の人口がこれからどんどん減少していく一方で、人口増加による経済発展が見込まれるアジアにおいて、日本人が活躍できる場を作っていきたい。この活動を通じて、そこまで広げられればいいなと個人的には考えています。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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