フィットの質にこだわったリハビリの必要性 フェイエ・ユースアカデミーの成功例

中田徹

リハビリは3者のコラボレーション

フェイエノールトのユースアカデミーでは“リハビリテーション・ピリオダイゼーション”を採用した結果、選手の再受傷やリバウンドが劇的に減ったという 【Getty Images】

 けがの程度や部所にもよるので、あくまで例だが、負傷した選手は最初、メディカル・スタッフと歩くことから始め、やがてジョギング、パスといったところまでできるようになったとする。それがリハビリの最初の段階だ。

 次の段階で、テクニカル・スタッフも選手のリハビリに関わり始める。まずはチームのウォーミングアップから。その日のチーム練習はそこまでで、選手はメディカル・スタッフのもとへ戻ってリハビリトレーニングを続ける。もしかしたらこの時点で、この選手はメディカル・スタッフとシュートを打つところまで進んでいるかもしれない。

 しばらく経ったら、今度はチームの全体練習に加わることになるかもしれない。例えば、広いピッチでの戦術練習で、監督が頻繁に笛を吹いて指示を与える、そんな休息があって、負荷も低い練習だ。テクニカル・スタッフも、このリハビリ中の選手がフィットしていないことを理解しているから、軽めの戦術練習が終わったら、彼をメディカル・スタッフのもとへ戻し、リハビリテーション・プログラムを続けさせる。この時には「フットボール・サーキット」という、選手をチームへ完全に戻すためのフィットネスプログラムを相当こなせるようになっているかもしれない。

 フットボール・サーキットとは、スプリントしてストップしターン、カットイン、ジャンプして着地しターン、パスしてシュートといった、サッカーの動きに近づけたアクショントレーニングだ。ここまで来たら負荷を低く設定した11対11を6分間で3セットできるかもしれない。やがて、実戦に近い強度で11対11を12分間に3セット参加したとする。言い換えれば紅白戦を36分間出たのだから、彼は本当の試合に30分間程度なら出場できるだろう。つまり「フィットした」状態になる。

 このリハビリテーションの流れを追っていけば、メディカル・スタッフも、コーチング・スタッフも、1人の選手のリハビリテーションに対して共同で責任を負っていることが理解できるだろう。

「しかし、リハビリテーションの責任を負うのはメディカル・スタッフとコーチング・スタッフだけではありません。選手も、その責任を負うのです。われわれが『ああ、あの選手はフィジカル的にはフィットしているな』と判断しても、選手の頭の中に恐れが残っていたら1対1の奪い合いに挑んでいくことはできません。この場合、われわれは彼の恐れを取り除く作業をしないといけません。つまり、リハビリテーションとはコーチング・スタッフ、メディカル・スタッフ、そして選手のコラボレーションなのです」(カウペルス)

選手の再受傷やリバウンドが劇的に減少

 カウペルスが伝えたいのは、メディカル・スタッフとコーチング・スタッフが一つの“フィロソフィー”でリハビリテーションに取り組むこと。フェイエノールトのユースアカデミーでは“リハビリテーション・ピリオダイゼーション”を採用した結果、選手の再受傷やリバウンドが劇的に減ったという。

「レイモンドがフェイエノールトに来てから、われわれは一つの“フィロソフィー”で仕事をするようになりました。どのカテゴリーの監督が何を練習するのか、皆が把握できるようになりました。『今度の火曜日の練習は何か?』『それはどういう意図があるか?』。そのことを私も知ろうとしました。少しでも痛みのある選手は、練習の負荷を減らしました。これもメディカル・スタッフとコーチング・スタッフのコミュニケーションが良かったからです。

 負傷者が減ったことにより、練習の質が上がりました。練習の質が上がったことにより、勝ち点を多く奪うことができました。その成果は、ユースアカデミーから多くの選手がフェイエノールトのトップチームへ昇格し、活躍したことで証明できるでしょう」(カウペルス)

 リハビリテーションの失敗は、選手のキャリアを潰してしまう可能性もある。そのことを避けるためにも、負傷中の選手もチームの構成員と考え、チーム全体の枠組みの中でフィットの質にこだわったリハビリテーションに取り組む必要性があるだろう。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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