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フィットの質にこだわったリハビリの必要性
フェイエ・ユースアカデミーの成功例

スタッフ間のミスコミュニケーションによる問題

メディカル・スタッフ、コーチング・スタッフが一つの“フィロソフィー”でリハビリテーションに取り組むことの必要性を説くマイケル・カウペルス
メディカル・スタッフ、コーチング・スタッフが一つの“フィロソフィー”でリハビリテーションに取り組むことの必要性を説くマイケル・カウペルス【World Football Academy】

 負傷した選手はけがを治し、リハビリテーションを積んでコンディションを上げてからチーム復帰を果たすことになる。だが、サッカーの現場では、チームに戻ってきたばかりの選手が再び負傷してしまったり、リバウンドを起こしてコンディションを崩してしまったりする事例が非常に多い。


 メディカルトレーナーが「フィットした」と判断した選手が、長いリハビリの末、チームに合流してくる。すると指導者は「メディカルスタッフが『フィットした』と言ってるんだから、全体練習もほとんどこなせるだろう」と考え、負荷の高すぎる練習を負傷明けの選手に課してしまい、再び故障してしまうこともある。


 オランダのサッカーリハビリテーションの第一人者、マイケル・カウペルスは「サッカーの世界ではコーチングスタッフとメディカルスタッフが、異なる“フィロソフィー(哲学)”で働いています。その結果、両者のミスコミュニケーションが起こって、負傷明けの選手が再受傷したりリバウンドを起こしてしまったりします」と憂える。


「負傷した選手に対して、コーチングスタッフは責任を取ろうとしません。一方、その選手がリハビリテーションを終えてチームに戻る時、フィットしている選手と同じ動きができないからといって、メディカルスタッフは責任を取ろうとしません。サッカーに限らず、世界中のチームスポーツで、このような問題が起こっています」(カウペルス)

軸になる“チーム・ピリオダイゼーション”

 かつて、カウペルスが仕事をしていたフェイエノールトのユースアカデミーでも、同様の問題があったという。しかし、“サッカーのピリオダイゼーション”(高いパフォーマンスを維持・向上させるために、練習の回数や負荷を調整しながら、ボールを使ったコンディショニング・トレーニングをすること)を広めているレイモンド・フェルハイエンが2006年に来たことによって、カウペルスはフェルハイエンと“リハビリのピリオダイゼーション”を発展させていった。


「以前は、コーチングスタッフとメディカルスタッフが、別々の考えで仕事を進めていました。『どうして両者は違う“フィロソフィー”を持っているのだろうか』と議論した結果、ピリオダイゼーションのモデルを使って、コーチングスタッフもメディカルスタッフも同じ“フィロソフィー”を使って仕事をすることにしました」(カウペルス)


“サッカーのピリオダイゼーション”では、“チーム・ピリオダイゼーション”、“インディビジュアル・ピリオダイゼーション”、“リハビリテーション・ピリオダイゼーション”がある。


 軸になるのは“チーム・ピリオダイゼーション”だ。チームのコンディションをシーズンが進むごとに上げていくため、全体練習のトレーニングメニュー、強度、時間がプランニングされている。この枠組みの中に、“インディビジュアル・ピリオダイゼーション”と““リハビリテーション・ピリオダイゼーション””が加わってくる。


「チームとはひとりひとりの選手の集合体です。一つのチームが18人で構成されているとしたら、中には新人もいますし、ベテランの選手もいるでしょうから、個々の年齢の特性に応じた練習にメニューを調整しないといけませんよね。中には家族の不幸もあって、休ませてリフレッシュさせた方が良い選手もいるでしょう。こうしたアプローチが“インディビジュアル・ピリオダイゼーション”です。


 しかし、チームには負傷していて試合に出られない選手もいます。レイモンドは、『負傷している選手もチームの構成員の1人』と考え、“チーム・ピリオダイゼーション”と“インディビジュアル・ピリオダイゼーション”に“リハビリテーション・ピリオダイゼーション”も組み込んだのです」(カウペルス)

「サッカーを知ること」を追求

 例えば、負傷した選手が12週間後にチームへ完全合流する計画を立ててリハビリテーションを始めたとする。その全体練習の強度、量は“チーム・ピリオダイゼーション”によってプラニングされているから、その強度の練習に順応できるコンディションまで持っていくことがターゲットとなる。


「メディカルスタッフは、選手をどのレベルまで戻さないといけないか、理解していないといけません。そのことを分かってないと、リハビリテーションは勘に頼ることになる。メディカルスタッフが『彼はフィットしました』と言っても、本当にチームに戻して大丈夫かどうか確信が持てず、リハビリテーションはロシアンルーレットのような賭けになってしまいます」


 リハビリテーション・トレーナーの多くは、フィットネスの世界から来ている。中には「12分走を3000メートル走れた。左足のレッグプレスも、右足と同等になった」ということで、選手がフィットしたかどうか測る例もあるだろう。しかし、選手にとって難しいのは「サッカーの負荷」にアジャストできる体を作ることである。


 だから、フェルハイエンとカウペルスは「サッカーとは何か。サッカーは繰り返しの動きがあるスポーツ、突発的な動きのあるスポーツ、爆発的なアクションのあるスポーツ、動きのテンポが一定しないスポーツ、トレーニングと試合があるスポーツ、早い回復力が求められるスポーツ」という分析から始め、リハビリテーション・トレーナーにも「サッカーを知ること」を求めた。


「レイモンドは言葉にとてもこだわりました。フィットネス界の言葉を使わないようにし、フットボールの言葉に置き換えたのです。“リハビリテーション・ピリオダイゼーション”も、“チーム・リハビリテーション”と同じ原則を用いて週ごとにどのように進めていくかプラニングしました」(カウペルス)

中田徹
中田徹
1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている