オランダが女子サッカーにかける本気度 なでしこたちが感じた危機感と違い

中田徹

07年を皮切りに本格的な強化がスタート

今年初めてW杯に出場したオランダ。決勝トーナメント初戦でなでしこに1−2で敗れた 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 オランダはまだ女子サッカー後進国で、なでしこジャパンのことをお手本として見ているから、大儀見の言葉を聞いたらきっと驚き喜ぶだろう。

 オランダ女子サッカーが本格的に強化を始めたのは、2007年にエールディビジが生まれてからだ。まだ10年に満たぬというのに、AZ、FCユトレヒト、ヴィレムII、ローダJC、VVVフェンロが女子サッカーから手を引くという波乱万丈の歴史を持つリーグだ。12−13シーズンから3シーズン、『ベネリーグ』というベルギーとの共同リーグを開催するという革新的な試みもあったが、ベルギーはスタンダールしか強いチームがなく、15−16シーズンから再びエールディビジとして実施されている。現行チームはADOデンハーグ、SCヘーレンフェーン、FCトウェンテ(以上オリジナル6)、FCズウォレ、テルスター、アヤックス、PSVの7つ。来季はアヒレス29が加わる見込みで、将来は12チームまで拡大する予定だ。

 オランダ女子代表監督を務めながら、エールディビジ創設にも尽力したのが、最近南アフリカを五輪出場に導いたベラ・パウだ。「オランダ女子サッカー界のパイオニア」と呼ばれるパウの下、オランダは09年初めてビッグイベントに出場し、フィンランドで行われたユーロでいきなりベスト4に進出した。ひたむきに戦う彼女たちの姿勢にオランダ国民も多くのシンパシーを寄せたが、選手のレベルがそれほど高くなかったこともあって専守防衛の策がアンチも生み、“ポルダー・カテナチオ(ポルダー/オランダの干拓地)”とやゆされた。

 10年、オランダサッカー協会(KNVB)はパウと袂を分かち、ロジャー・ライネルス監督に「試合を支配し、攻撃的に戦う“ホーラント・スホール(オランダ派)”」によるチーム作りを促した。しかし、13年のユーロでは無得点のままグループリーグ敗退に終わり、15年には初めてワールドカップ(W杯)に出場するという快挙を達成。しかもベスト8進出を果たしたものの、サッカーの内容では世界の強豪国との差がまだ大きいと痛感させられた。

スポーツ省も後押ししたユーロ開催

オランダ女子代表の評判は両極端に分かれている。しかし、国内での女子サッカー熱は高まる一方だ 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 2度のユーロ、1回のW杯から、オランダ女子代表に対する見方は、好意的なものと否定的なものと両極端に分かれる。否定的なものから紹介すると、やはりレベルが低くてつまらないというもの。11月15日に放映されたNOS局のサッカー議論番組『ストゥディオ・フットボール』では、著名なサッカー担当記者が「スウェーデンのユーロでは本当にがっかりした。強豪国のサッカーなら見ていて楽しいけれど、オランダの女子サッカーはダイジェストで十分。90分間、フルに中継されても見るに耐えない」と述べた。

 しかし、オランダでは「女子サッカーは今、急速に進歩を遂げているスポーツだ」と評価し、「将来的には商業的価値が生まれるかもしれない」と見る向きもある。それを裏付ける数字として、女子サッカーの競技人口の伸びがある。KNVBに登録しているサッカー選手120万人のうち、女子サッカー選手は14万6000人で、1年間で6.23%も増えている。また、オランダ女子代表のホームゲームの平均観客数は12−13シーズンが3614人、13−14シーズンが3916人、14−15シーズンが6359人と大幅な伸びを示している。

 オランダの女子サッカーにかける本気度は、17年のユーロを自国開催することからも分かる。スポーツ省のスヒッパー大臣は「オランダU−19代表がユーロで優勝したこと、オランダ女子代表がW杯に出場したこと、そして今回、オランダがユーロの開催権を獲得したことは、オランダ女子サッカー界にとって短期間で勝ち得た3つの成功だ」と喜ぶ。

 オランダの目標は3月、自国開催の五輪予選に勝ってリオデジャネイロに行くこと。そして17年のユーロだ。アルヤン・ファン・デル・ラーン新監督は抱負を語る。

「私は現役時代(男子のスパルタ・ロッテルダム、トゥエンテで)攻撃的なMFでした。その時の経験を女子代表チームにもたらしたい。ビルドアップはGKから始まり、最終ラインからしっかりとつなぐが、自陣のパスで危ない場面を作らない。パワー、勇気、そしてフットボールを楽しむことが大事。リオ五輪に行って、そこで勝ち上がっていくことによってレベルの高い試合をいくつもこなしてからユーロを迎えたい。そうすれば、オランダ女子サッカーの成長速度はより高まっていくでしょう」

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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