最悪のシナリオを招いた不可解な継投策 大一番で露呈した小久保監督の経験不足

中島大輔

無視満塁の局面で松井をマウンドへ

試合後会見で敗戦を振り返る小久保監督(左)とキャプテンを務める嶋 【Getty Images】

 継投に対する2つ目の疑問は、このタイミングで松井を投入したことだ。

 15日のベネズエラ戦で松井は最終回に登板したが、2点を奪われ逆転されている。開幕戦の韓国戦では最終回に無死満塁のピンチを招いており、抜群の安定感を誇ったシーズン中と今大会では異なる調子のように見えた。

 実際、松井はベネズエラ戦後に「見ての通り自分の実力がない。何が悪かったというより、通用していなかった」と茫然(ぼうぜん)自失で振り返っている。だが、小久保監督は「明日(準々決勝)も同じ場面で行く」と信頼を口にした。これが本心かは分からないものの、事実として、準決勝では最終回のマウンドを則本に任せる選択をしたのだ。

 ところが、1点を取られて無死満塁という絶体絶命の場面で、左腕の松井を3番手に送った。相手が左打者のキム・ヒョンスだったという状況ではある。しかし、それならば2番のイ・ヨンギュも左打ちだ。試合後、小久保監督は継投ミスを認めている。

「僕のなかで、あそこで出すならもうひとり手前で出しておけばよかったなという反省はあります」

 結果、松井は押し出し四球を与え、マウンドを後にした。

「あれ以上は酷かな」

 指揮官がそう振り返った一方、松井は打ちひしがれた表情で声を振り絞った。

「ああいうピンチの場面でシーズン中のように見下ろしていく自分のピッチングができなかったのは、やっぱり自分の実力不足ですし、自分の弱さだと思います。そんなに緊張はなかったですけど、相手が一番いい左バッターだったので、もうちょっと大胆に行ってもよかったと思います。難しさも厳しさも分かった日かなと思います」

増井投入にも残る疑問

 9回に入って1アウトも取れないまま1点差に迫られ、無死満塁で送り込んだのが増井だった。だが、シーズン中は4打数4三振と抑えていたイ・デホに「はじめからフォークが来ると感じていた」と読まれ、宝刀をとらえられて逆転を許す。

 増井の投入は、ふたつの点で疑問が残った。ひとつは、ブルペン陣の使い方だ。
 今大会で小久保監督は松井、増井、山崎康晃、澤村拓一と所属チームでクローザーを務める4投手を選出している。彼らの起用法を含め、韓国戦の9回の継投についてこう振り返った。

「ランナーが出た後、普段(イニングの頭から)9回だけを任されているクローザーたちなので、(回の途中から)流れを止めるのはなかなか難しかったというところですね。そういうメンバーを選んだ僕の責任でもあるし。本職のクローザーをしっかり集めて、7、8、9回はクローザーでつなごうというイメージがあったのでね」

 それならば、9回の頭から松井に任せるべきだった。だが、そうすることができなかったのは、松井の状態が良くなかったからだろう。それは増井にも当てはまる。北海道日本ハムのクローザーは16日の準々決勝プエルトリコ戦で、最終回に3ランを打たれた。

 準決勝で韓国に敗れた後、嶋に松井と増井の状態を聞くと、こう答えている。

「(シーズン後の)この時期に本調子のピッチャーはなかなかいないと思います。そのなかで一生懸命投げてくれました」

 一方、増井は今大会における登板のタイミングが読みづらく、準備の難しさがあったと振り返っている。

「いつ来るか分からないというところで、気が張っていた部分は常にあったかなと思います」

問い直すべき、侍ジャパンの指揮官の地位

 こうしていくつもの継投ミスが重なり、韓国に歴史的敗北を喫したのだった。

 敗戦投手になった則本に「野球人生でこのような悔しさを味わったことがあるか」と聞くと、唇をかみ締めた。

「これだけ大きな大会で味わったことは僕自身ないですし、こんなものは味わわないほうがいいですけど。これも今後の野球人生に生かしていかないと、意味がなくなるので」

 おそらく、松井も同じ気持ちでいるのではないだろうか。ふたりや増井にとって、この日の敗戦は今後の野球人生の糧になるはずだ。選手にとって、今回のプレミア12が成長の場になるなら意義深い大会だったと言える。

 だが、その視点は指揮官には当てはまらない。

 小久保監督が侍ジャパンの監督に就任した頃から、指導者経験のなさを不安視する声は少なくなかった。それが韓国との大一番で、最悪の結果につながった。当初のプランに縛られ、状況に合わせて采配を変化させられなかったことが敗戦を招いた。

 プロ野球や日本球界にとって、侍ジャパンは大きな意味を持つチームのはずだ。そうであるならば、現在の指揮官を任命した者たちは問い直すべきだ。

 侍ジャパンは、監督を育てるための場所ではない。経験のない者にタクトを振らせるのではなく、勝てる指揮官にチームを任せるべきである。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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